『小右記』全巻を対象とし、音楽記事を抽出して、諸本との校合を行いながら、記事を読み下し・分析に着手した。記事を時系列でみて行くと、これまでの音楽史では触れられていなかった変遷が読み取れることに気づいた。 たとえば、これまでは雅楽寮が、時代が下るにつれて存在意義が薄れ、次第に楽舞については宮廷の楽所にその職掌が移行したことが知られているが、さらに古い時代を視野に入れてみると、兵庫が縮小するにつれ、本来鼓笛(軍楽)が担当していた行幸時の立奏などが、雅楽寮の職掌に移行して雅楽寮に残った僅かな職務となっていったことが分かった。 さらに各儀礼、盛儀毎にはさらにその都度大小の変化がみられ、道長の時代には諸々の点で画期が訪れたことが分かった。『源氏物語』「紅葉の賀」で著名な舞楽《青海波》の装束が、当時としては異例の色が用いられたことなどもその一つである。近世の雅楽復興に際して参考とされたのが、文学作品であった可能性等も含め、このような今後の研究課題の芽がいくつも得られた。 今後はさらに主要な行事、盛儀、法会など毎に、変遷をまとめるべく努力したい。 成果の公開には、細部の検討や他文献による裏付けなどが必要であると考えるため、いましばらく時間を要する。 また、『中右記』についても『小右記』と同様の状況である。『小右記』の雛形を定めた後、『中右記』にも敷衍して、所属機関の研究年報などを発表媒体として、順次公開していく予定である。
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