この研究では、9世紀に成立した『新撰姓氏録』のテキストについて考察を深めた。『新撰姓氏録』は現在では抄本しか残っておらず、しかも、原本の抄出の仕方が粗雑である。さらに、伝写の過程で生じた誤写や改変も少なからず存在し、抄本の復原や原本の体裁の類推は、『新撰姓氏録』研究の重要課題である。 そこで、本研究では、各地の写本の悉皆調査を進め、諸本を校合して、新たな校訂本作成に取り組んで、一応の粗案を得た。私見によれば、『新撰姓氏録』の最善本は菊亭文庫本だが、研究の過程で、この系統の写本にも問題が残ることが判明したので、写本の優劣を単純に判断することは慎まねばならない。
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