研究課題/領域番号 |
24520783
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
大谷 渡 関西大学, 文学部, 教授 (80340644)
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キーワード | 日台関係史 / 社会生活史 / 戦後史 |
研究概要 |
本研究は統治下において日本教育を受けて育った台湾の人びとが、戦後の台湾社会をどう生きたのかを社会文化史的観点から多角的に跡付け、その日本認識の核心及び上層部分の変容過程を具体的に解明することを目的としている。本年度においては、大正末から昭和初期に生まれた男女11人の台湾の人たちから詳細な聞き取り調査を行い、あわせて今日まで保存されてきた貴重な資料を収集した。それらの資料に十分な分析と考察を加え、論文としてまとめるとともに、国際シンポジウムを開催して広く社会に発信した。 本年度に関西大学において開催したシンポジウム「日本の近現代史と台湾―文化の継承と変遷」は、昨年度に国立台湾海洋大学で開催したシンポジウム「台湾と日本の戦前・戦後」と対をなすものであり、学内外から多数の参加者があり、実りあるものとなった。基調講演を行った私の主題は、日本の統治下で育った台湾の人びとがどのように生きてきたのか、その人生の記録と精神史を台湾と日本の戦後史の中に位置づけ、現代史の真実とその意味を問おうとするものであった。当日は『研究報告集』を来場者に配布した。 本年度の研究調査に協力を得た11人のうち1人は、戦中に父がスパイ容疑によって日本警察に拘引され、戦後の二二八事件では発砲によって兄を奪われる苦難に遭った。彼女は戦後日本に留学し、台湾に帰って夫とともに山地伝道を行い、後に台湾女性の社会的地位向上に尽力した。戦中に東京に留学した夫は、戦後神学校を経て人びとの幸福のために献身した。昭和初期に東京に生まれた男性は、公学校と中学校を経て戦後台湾大学を卒業した。彼は卒業後2度の軍隊生活を経験していて、戦後の軍事的状況との関連で、日本と台湾に関する証言を得た。戦中に高座海軍工廠の少年工を志願した男性は、終戦後台湾に帰って製糖工場の現場一筋で定年退職した。戦中と終戦直後、そしてその後の人生への思いを記録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、十分な準備と申請者のこれまでにおける研究の積み重ねの上に立って進めたことにより、当初の計画以上に研究が進展している。これまでの研究成果は、『台湾と日本――激動の時代を生きた人びと』(東方出版、2008年)、『看護婦たちの南方戦線――帝国の落日を背負って』(東方出版、2011年)として出版していて、これらの研究を進める上で協力を得た台湾の人たちとのネットワークが、本研究進展の上で大いに役立っている。 研究成果の発表を目的として、初年度に台湾において、今年度に日本において、いずれも充実した国際シンポジウムを開催できたのも、これまでの研究の積み重ねによるものであり、初年度における研究成果をふまえた今年度の研究成果は、調査範囲、内容ともに大きく進展した。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度と2013年度の研究成果の上に立って、台湾全島において聞き取り調査及び資料収集を継続する。2013年度において、2014年度中に聞き取り調査に応じてもらえる人たちとのコンタクトを整えている。さらに、これまでの台湾での研究調査によって得た成果から、日本と台湾において関連資料の調査と収集を実施する。 収集した資料は、十分な検討の上に立って公表する。2014年度中に研究成果を出版する計画を立て、出版に向けて執筆を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に国内で開催した国際シンポジウムへの招聘研究者に係る費用と、チラシの印刷及び研究報告集発行の費用が当初の見積もりよりも比較的安くすんだことと、この費用が不足しないように購入を控えたUSBメモリやデジタルカメラのメモリなどの費用が残ったことによる。 日本国内と台湾における調査の充実を図る費用に充てるとともに、USBメモリとデジタルカメラのメモリなどの購入に充てる。
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