本研究は戦後日本の社会生活史との関連において、統治下で育った台湾の人びとの日本認識とその変遷を、具体的に記録し史実に即して解明することを目的とした。 初年度(2012年度)から最終年度(2015年度)までの成果は、研究論文「記憶の中の台湾と日本-統治下に育った人びとの戦後の軌跡-」として毎年度公表し、2013年3月には国立台湾海洋大学において、国際シンポジウム「台湾と日本の戦前・戦後」を開催して研究成果を発表した。同シンポジウム開催にあたり、研究報告論文集を発行した。2014年3月には、国立台湾海洋大学副教授を招いて国際シンポジウム「日本の近現代と台湾」を関西大学で開催し、この時も研究報告集を発行した。 研究期間全体を通じての研究成果は、最終年度8月に、著書『台湾の戦後日本――敗戦を越えて生きた人びと』(東方出版刊、2015年)として出版した。10月には台湾から研究協力者を招いて、国際シンポジウム「『台湾の戦後日本』出版記念国際シンポジウム」を関西大学で開催した。『台湾の戦後日本』は、『読売新聞』9月6日付に「戦後70年 台湾 日本へのまなざし」の見出しで取り上げられ、『毎日新聞』10月1日付には「台湾の〝戦後日本"描く]の見出しで、シンポジウム開催の記事とともに大きく報じられた。当日は、学外から多数の来場者があり、学生の参加も多く会場は満席となる盛況であった。 本研究は、着手に際しての準備が十分であったことにより、当初の計画を大きく超えて進展した。日本統治下で日本教育を受け日本人として育ち、戦争を経験した人たちが、その後の激変する台湾社会で紡いだ人生を、何十人もの台湾の人たちからの聞き取りで収集した口述資料と文字資料、実地調査等の照合検討の上で明らかにすることができたことは、最大の成果であり意義である。
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