研究課題/領域番号 |
24520791
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
BREEN John 国際日本文化研究センター, 海外研究交流室, 教授 (90531062)
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キーワード | 式年遷宮 / 宗教法人 / 池田勇人 / 奉賛会 / 神社本庁 / 神宮司庁 / 言説分析 |
研究概要 |
ここ1年間の主な業績は二つほどある。一つは、「戦後の伊勢」について調査をした上、論文を纏めることが出来たことで、今一つは、国際日本文化研究センターにおいて「国際シンポジウム 転換期の伊勢」を開くことが出来たことである。前者については、近鉄本社、伊勢市立図書館、参宮街道資料館、滋賀県庁文書、神宮司庁、NHK津局でおこなった調査が功を奏した。そして国内外数回にわたって研究発表を実施した結果をふまえ、論文を数本執筆し、戦後の式年遷宮(1953年,1973年,1993年)を分析の軸に、伊勢神宮の「ハイブリッド」としての性格づけ(宗教法人でありながら、皇室とも国家とも密接につながってきていた有様)を浮き彫りにし論じた。 後者の国際シンポジウムに関しては、米国、中国、ヨーロッパそして国内多数の大学から研究者をまねいてシンポジウムを開いた。2日にわたって伊勢の古代から戦後までの主な転換期について語り合うことが出来た。伊勢神宮の歴史の中の様々な転換期に着目し、その転換期における「人間の行為者」の役割をとりわけ強調することに本シンポジウムの方法論的特徴があったが、その目的はあくまで伊勢神宮のよりダイナミックな歴史素描を目指すことであった。 伊勢神宮が古代から中世をへて近世へと移行する歴史過程の中で様々な人間(天皇、武家、知識人、庶民、神職、政治家など)の行為者によって、様々な次元(儀礼、空間、神話、思想、宗教、政治、法律、建築などなど)において常に生産、再生産されてきた、ユニークな聖地だ、というのがシンポジウムの結論であった。 この外にも、式年遷宮の際に伊勢にてフィールドワークを行い、神宮司庁の関係者、皇学館大学の教員に面談を行った。また新聞、ニュースレッターに2013年の式年遷宮に関する記事を執筆し、さらに、大正・昭和の伊勢について調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の柱となる国際シンポジウムを伊勢神宮の式年遷宮の年に開催し、前述したように充実した内容となった。しかし、シンポジウムの準備に年度前半の多くの時間を割くことになり、シンポジウム以外に予定していた大正・昭和の伊勢の調査が思う様に進まなかった。大正・昭和の議論の焦点の一つとしたいのは、学制生徒、青年団による修学旅行の考察で、滋賀県教育関係の資料を事例に調査を行ったが、資料を発見することができなかった。さらに、大正・昭和の伊勢を知る重要な手がかりとなるのは、伊勢神宮奉斎会の活躍だが、多くの時間を調査に費やしたが資料が非常に限られており、まだ充分に実を結んでいない。 また戦前の伊勢神宮をめぐる神職会の動きは、いまだに充分に突き止めることが出来ていない。これらの調査はいずれも26年度に持ち越しとなる。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、大正・昭和の伊勢についての資料調査を完成し、執筆を行うことが目的である。大正・昭和の伊勢を考えるうえでは、最も重要なイベントは1929年に執り行われた式年遷宮である。この式年遷宮の特徴は、初めて国民儀礼の規模で行われたことにある。それ以前の明治期の遷宮とそのあとの遷宮とまるで違うダイナミズムを有するイベントであった。その調査をおえることが第一の課題となる。大正・昭和の言説に見る伊勢を、教科書、メディア、奉賛会の宣伝物、神職会機関誌『皇国』、『皇国時報』などで調査を継続しているが、現段階ではいずれの調査も途中である。さらに大正・昭和の参拝(修学旅行を大正・昭和伊勢参拝の一特徴として位置づける)と、「伊勢」に新たに切り開かれてきた参拝空間を描くことを目指し、日通資料館、逓信総合博物館、埼玉鉄道博物館等で調査を行うことが欠かせない作業となる。 また、戦前に「御遷宮奉祝神都博覧会」(1930年)、戦後には、「平和大博覧会」(1948年)、「御遷宮記念お伊勢博覧会」(1954年)、「伊勢参宮博覧会」(1958年)、「世界祝祭博覧会」(1994年)といった「博覧会」と名の付く祝祭イベントが伊勢で開催された。これらは伊勢神宮とどういう関係性があるのか、そもそも博覧会と宗教/聖地との関係をどう位置づけたらいいのかについても検討を行う。 今一つ重要で基本的な課題は、「戦争と伊勢」との関係を吟味することである。これについてGHQ関係、外交関係、そして神祇院関係の文書を頼りにする。 そして『神都物語:近現代の伊勢』(仮題)刊行し、さらに「国際シンポジウム 転換期の伊勢」の原稿の最終取りまとめを行い、刊行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度のシンポジウム関連費用が当初予定していたよりもかさみ、26年度研究費の前倒し申請を行ったため、26年度に使用可能な研究費が少なく、できる限り26年度に使用する研究費を残すよう心がけたため。 5月末のUCLAでの研究成果発表のほか、25年度に引き続き関係機関での資料調査を行い、研究成果の公開に向けて研究を推進する。
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