伊勢神宮の葛藤に満ちた戦後に関する調査や執筆が最終年度の主な課題であった。しかしまず大正・昭和(前期)の神宮、とりわけ昭和四年の式年遷宮についての議論に磨きをかけ、儀礼論(Resonance and reverberation概念)を応用し、遷宮が前例のない国民儀礼として実施されたことを示した。 戦後の神宮となれば、4回行われてきた式年遷宮を分析の軸とし、神宮が徐々に公共圏に姿を現してきたことを指摘できた。神宮の、政府、天皇、国民との変容する関係に焦点を絞り、特に天皇、内閣の遷宮儀礼への係わり合い、財界の伊勢神宮との深い関係性を明るみにした。伊勢の現実を反映するだけでなく、その現実を形成する媒体でもあるプリント・メディアの活躍にも注目をした。さらに戦後の伊勢という場にも目をむけ、その地勢学が戦後どのように変貌してきたかを浮き彫りに出来た。伊勢神宮は、結論的に終戦直後から目指していた脱法人化作戦は徐々に功を奏していることになる。2013年の式年遷宮にみた総理大臣の、前例のない参列は、その証拠であることを議論した。 この研究成果については日本国内・海外で数回報告してきた。また単著『神都物語:伊勢神宮の近現代史』の執筆及び論文集『変遷する聖地 伊勢』の執筆・編集を完成出来た。さらに英文書籍The capital of the gods: a social history of the Ise shrines(Mark Teeuwenと共著)をほぼ完成した。 伊勢神宮の充実した近現代史を3年だけで書くことは不可能であったが、今後はとりわけジェンダー的な観点からみた江戸後期・明治初年の伊勢参り、戦前に組織された全国神職会の伊勢神宮観、そして戦後の伊勢神宮と森林管理など環境問題について調査を続け、個別論文に書き上げるつもりである。
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