研究課題/領域番号 |
24520798
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴保 新潟大学, 現代社会文化研究科, 研究員 (40403026)
|
研究分担者 |
荒川 慎太郎 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (10361734)
|
キーワード | 西夏 / モンゴル / カラホト / 出土文献 / ロシア / 国境防衛 / 仏教 |
研究概要 |
平成25年度は、研究代表者の佐藤、研究分担者の荒川、そして研究協力者の冨田裕子(岡山理科大学附属中学校教諭)が、8月にロシア科学アカデミー東方文献研究所を訪問し、同研究所が所蔵するカラホト遺跡出土の西夏時代の文献を実見調査した。 佐藤は、モンゴル軍侵攻期の行政文書約20点を調査し、その中にモンゴル軍との戦闘によって西夏兵の中に逃亡者が出ていることや、西夏の皇族が死亡したことを伝えているとみられる文書群が存在することを見出した。ただし、それらの文書は難解な草書体の西夏文で書かれていることから、文書群の細部の解明は次年度に持ち越した。 荒川は、モンゴル軍侵攻期とその直前期の西夏文仏典の経名の確定作業を行うとともに、それらの奥書を調査し、仏典の刊行にモンゴルとの国境に近いカラホトだけでなく西方の敦煌の者も加わっていること、侵攻期とその直前期とで刊行されている仏典の種類に大きな違いが無いことを明らかにした。 冨田は、モンゴル軍侵攻期に制定された法令集『亥年新法』の軍事関連の条文群1巻を実見、解読を行い、その条文中に女真(モンゴル軍侵攻期以前の西夏の同盟国であった金王朝)とみられる国を友好国とみなす文言を見出し、法令条文から西夏・モンゴル・金をめぐる当時の国際情勢の一端がうかがえる可能性が出てきた。 研究成果の発信も随時行い、佐藤・荒川・冨田は平成25年秋にドイツの学術雑誌(査読有)に論文を投稿した(本報告書作成時点で論文の採否は未決定)。佐藤と荒川は、中国で招待講演を行い、当時のカラホトや敦煌における仏教信仰の諸状況について研究成果を概説した。冨田は、平成26年3月21日に京都の大谷大学で開催された国際ワークショップ「東アジアの非漢語古語文献:書体研究の展望」において、「草書体西夏文文献『亥年新法』巻4の条文解読と女真」と題して研究成果を口頭で報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り、佐藤・荒川・冨田は、平成25年度中にロシアの研究所での文献実見調査を実施した。当初計画で調査対象に設定した文献のうち、冨田はすべての文献を調査することができた。一方、佐藤が調査予定であった文献のうち、1割ほどは調査が実施できなかった。これは、文献を所蔵している研究所側の整理が行き届いておらず、行方が分からなくなっているからである。そうした文献の行方が判明するには相当な時間を要するとみられる。とはいえ、実見調査のできた文献を用いてモンゴル軍侵攻期の西夏の動向の実態をより具体的に明らかにしつつあり、当該研究の本来の目的であるモンゴル軍侵攻期における西夏国内の状況を把握するのに十分なデータを集めることができたと判断している。荒川は調査予定の仏典9割を実見することができた。調査のできなかった残る1割の文献は、研究所側が補修のため一時的に閲覧を停止しているものであり、平成26年度に再度ロシアに赴き、残る仏典の調査を行うこととした。 研究成果の発信も積極的に行なっている。佐藤・荒川・冨田は、研究成果を平成25年秋にドイツの学術雑誌(査読有)に投稿したが、本報告書作成時点で、その採否は決まっていない。また冨田は、平成26年3月に国際ワークショップで研究成果を口頭で報告した。研究成果の一部を論文や口頭報告で公開できる段階に達していることから、成果発表の面では当初の計画よりも高い達成度をあげていると考える。 難解な草書体西夏文の解読は、当初の予想以上に難航しており、文献の細部の検討にはなお時間を要する。よって、この部分での作業の進捗度は当初の計画より若干遅れていると評価する。 以上を総合すると、当該研究の達成度は当初の計画よりもやや遅れていると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
当該研究は平成26年度が最終年度となる。荒川はロシアでの文献の実見調査を平成26年8月に実施し、未調査の仏典の経典名の確定や、奥書の調査を行う。 当該研究の遂行に大きな障害となっている草書体西夏文の解読については、さまざまな文献から用例を集めるなどの作業が必要である。現在、各メンバーが用例の収集を鋭意進めており、収集データの突き合わせを行う検討会を平成26年9月までに1度実施することによって、障害を克服したい。 収集データの解読・分析を経た上で、最終的な研究成果の取りまとめを平成26年度末までに進めていく。内外の学術誌への投稿や、学会での報告を行う。西夏史をテーマとする国際学会は、平成26年度中に中国・モンゴル・東京で開催が計画されており、それら学会での報告ないしはペーパーのみでの参加を行う。国内学会でも、平成27年3月に関西で開催される遼金西夏史研究会大会(当該研究との共催で実施予定)でメンバー全員が報告する予定であり、同研究会に出席する西夏史・モンゴル史さらには中央ユーラシア史研究者との討議を経たうえで、当該研究の意義および研究成果をまとめる。 当該研究は西夏文字という特殊な文字を扱っており、研究の対象としている草書体西夏文を正確に読解できているかを他の研究者が検証できるようなかたちで公開するには、原文の画像データや西夏文の録文を論文に掲載することが最善の方法であるが、各学術雑誌では、編集上の諸問題からそれらのデータを誌上に掲載することが難しい。このため、テキストの画像・録文・訳注を併記したデータ集を冊子体報告書のかたちで編集、印刷し、それらを内外の西夏史・西夏語研究者に配布したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の調査で、荒川がロシアの研究所で調査対象としている仏典の調査が、研究所側の事情で完了できなかった。このため、平成26年度にもう一度ロシアに赴き、未調査の仏典の実見を行う必要が生じた。 平成25年度に使用しなかった費用は、主として平成26年夏に荒川がロシアの研究所で仏典の調査を行う際の海外出張旅費に充てる。
|