研究課題/領域番号 |
24520804
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
藤田 勝久 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10183592)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流・中国 / 里耶秦簡 / 漢代の木簡 / 秦漢王朝 / 地方行政 / 地域社会 |
研究概要 |
(1)本研究は、長江流域と漢代辺郡の出土資料の分析を通じて、秦漢時代の中央国家と地方統治システムの原理を解明しようとする。本年度は、新しく公刊された『里耶秦簡・壹』『里耶秦簡牘校釈一』の分析をすすめ、画像データの整理と、重要な用語について解釈一覧を準備した。また秦帝国の軍事編成や、里耶秦簡の文書伝達の方法、簡牘の記録にみえる機能について考察し、全国に通じる情報伝達の機能を指摘した。 (2)中国湖北、湖南省の簡牘研究者と交流し、秦代南方の実地調査をした。武漢大学簡帛研究中心、湖南省考古研究所、湖南大学では、里耶秦簡と岳麓書院蔵秦簡の研究状況と実物資料を調査した。また長沙市を拠点として、秦代洞庭郡の県治所にあたる古城遺跡と、里耶古城とその周辺の実地調査をし、長江流域の交通路と城郭都市に関する情報を整理した。 (3)愛媛大学で国内外の研究者を招聘して、公開講演会「始皇帝と秦帝国」を開催した。内容は、秦帝国と里耶秦簡を理解する問題点や、『史記』秦始皇本紀の構成、里耶秦簡の郵書記録にみえる特徴、秦代の文書行政、秦代郡県の人的構成などであり、その成果は調査ノートとあわせて公表した。 (4)里耶秦簡を中心とする共同研究と、実地調査、公開講演会などを通じて、本年度は、秦都城・咸陽の中央官制と、南方の拠点である南郡、洞庭郡、長沙国方面の地域社会について、中央と地方を結ぶ情報伝達の原理を整理した。その成果の一部は、東京、武漢大学、香港歴史博物館で開催された国際学会や、国内外の大学で講演をした。これは次年度に、漢代中央官制と西北辺境の地域社会にみえる情報伝達の原理と比較するための基礎作業であり、日本古代の木簡学との比較も意識している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)里耶秦簡の整理と分析は、公表された第一冊にもとづいて、基本的な整理をした。今後は全5冊として刊行が予定されており、この分析は継続して行う計画である。また長江流域の秦漢時代の出土資料についても、総合的な研究整理を続けている。 (2)里耶秦簡を中心として、『史記』史料との関係、秦代南方統治の実態と問題、情報伝達の原理を解明することは、初歩的な分析を終え、共同研究者による討論をふまえて、文書行政や地方官府の詳しい考察を進めている。 (3)里耶秦簡の文書と記録による考察では、地方官府における文書伝達と、情報処理、実務を運営する方法に、基本的に全国に通じる規格があることを指摘した。この規格は、また漢王朝に受け継がれており、武帝期以降に設置された西北の辺郡にも共通する側面がある。その比較研究を行なうための基本的な準備を終えている。 (4)本研究の成果は、学術論文、国際学会、研究会などを通じて広く公開した。 本年度に予定していた計画は、十分に達成しており、長江流域の地域社会については、今後も考察を継続する予定である。次年度以降は、漢代西北の地域社会の実態分析とあわせて、秦漢時代の国家と地方統治システムの総合的な考察を進める準備を整えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、漢代西北の敦煌漢簡、懸泉漢簡、居延漢簡などの分析を進め、その背景となる漢代辺郡の甘粛省・内蒙古などの遺跡について実地調査を行う。また『史記』『漢書』と懸泉漢簡、居延漢簡による地方官府の運営方法と実務の実態について考察する。 (1)本年度につづき、長江流域出土資料や漢簡の資料・研究書などを収集・整理し、里耶秦簡のデータ整理と用語集の準備を継続して行なう。また漢簡のデータ整理と用語集をあわせて準備する。 (2)平成25年8月に、漢簡の調査と、甘粛省・内蒙古のエチナ河流域を中心とする現地調査を行なう。この調査では、居延漢簡とその周辺の遺跡を対象とする。また漢簡の国際学会のほか、学術論文、学会発表などで、成果の一部を公表する。 (3)秋に愛媛大学で国内外の研究者を招聘して、公開講演会を開催する。また共同研究者との討論をふまえて、秦漢時代の地方行政と情報伝達に関する簡牘の機能や、情報処理の規格と原理、地域社会の特色について考察する。これらの成果は、長江流域の地方行政と地域社会の特質と比べ、秦漢時代の中央国家と地方統治システムの原理を解明し、その運営をモデル化する準備を行う。同時に、残された問題点や課題について検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)設備の図書では、中国古代史と簡牘研究の方面で、基本となる史料と研究書や、出土資料の報告書などを収集し、資料の追加をする。 (2)中国甘粛省の調査と、国際学会で成果を報告するために、連携協力者などの旅費を支出する。また愛媛大学に研究者を招聘して、シンポジウムを開催するための旅費や謝金を予定している。打ち合わせなどの費用は、必要に応じて使用する。 (3)謝金等では、データ処理のためにパソコン入力の作業補助や、国際共同研究の活動を支える用途を予定している。研究会の開催などには、論文の翻訳、通訳、研究補助の謝金を計上している。 本研究に関する研究協力者は、陳偉(武漢大学簡帛研究中心)、張俊民(甘粛省文物考古研究所)、金秉駿(韓国ソウル大学校)、金慶浩(成均館大学校)であり、このほか必要に応じて研究協力を依頼する予定である。
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