研究課題/領域番号 |
24520804
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
藤田 勝久 愛媛大学, 法文学部, 教授 (10183592)
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キーワード | 里耶秦簡 / 漢簡 / 秦漢史 / 地域社会 / 文書行政 / 交通システム / 情報伝達 / 『史記』 |
研究概要 |
1,本年度は、秦漢時代の国家と地方統治システムの原理を解明する基礎として、『史記』『漢書』と出土資料の地域社会に関する内容を考察した。秦代では、『里耶秦簡・壹』『里耶秦簡牘校釈一』の画像データと釈文をもとに、文書伝達と情報処理の方法について分析を進め、とくに里耶秦簡が出土した遷陵県を中心として、上級の郡との関係や、県の下部組織とのやり取りを考察した。また前年度につづいて、里耶秦簡の重要な用語の解釈一覧を作成している。 2,現地調査では、中国甘粛省のエチナ河流域の遺跡と簡牘、台湾の中央研究院歴史語言研究所にある居延漢簡を対象とした。甘粛省では、連携研究者と一緒に「居延遺址与絲之路歴史文化国際学術研討会」に出席し、肩水金関や酒泉市などの遺跡・文物、甘粛省文物考古研究所の漢簡を調査した。台湾の居延漢簡の調査では、とくに簡牘の形態と機能に関する檄、符、出入記録、郵書記録、伝の記録などを中心とした。こうした調査とあわせて、懸泉置をふくむ疏勒河流域と、肩水金関・肩水候官、甲渠候官をふくむエチナ河流域の文書伝達と交通システムの原理について考察を進めた。 3,愛媛大学で国内外の研究者を招聘して、公開講演会「中国の文字資料と社会」を開催した。内容は、秦漢時代の簡牘による情報技術と、文書と書籍、交通に関する簡牘資料の考察である。また秦漢時代の国家と地域社会について理解を深めた。 4,本年度は、前年度の主体であった里耶秦簡と南方社会の分析にくわえて、漢代西北の漢簡と交通システム、地域社会の考察を進めた。この両者の文書伝達と交通システムの原理を比較することによって、秦漢国家に共通する地方統治の原理を解明する基礎となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1,里耶秦簡の分析は、公表された第一冊にもとづいて基本的な整理をした。その重点は、基礎単位である県社会を中心として、その上級の郡、下部組織と郷の関係を文書伝達と交通システムの方面から分析することである。これは今後に予定されている『里耶秦簡・貳』を分析する準備になると共に、『史記』をふまえた総合的な地域社会の研究に対応している。 2,中国の現地調査と懸泉漢簡、居延漢簡、肩水金関の文書と記録による考察では、漢代の地方官府における文書伝達と、情報処理、実務を運営する方法、交通システムに、全国に通じる規格が見出せることを指摘した。この規格は、里耶秦簡にみえる秦の制度を継承するものであり、武帝期以降に設置された西北辺郡だけの原理ではない。ただし長江流域と漢代西北に特有な社会状況は、簡牘の全体的な内容からその意義を位置づける必要があり、先行研究をふまえた基本的な考察を進めている。 3,本研究の成果の一部は、中国の甘粛省、上海、香港、韓国のソウル大学で開催された国際学会と学術討論会や、国内外の学術論文で公表し、学術的な討論を続けている。 4,本年度に予定していた計画は十分に達成しており、秦代の里耶秦簡と漢簡について、それぞれの文書伝達と情報処理、交通システムの概略を理解することができた。これは次年度に、長江流域と漢代西北の地域社会の実態分析をあわせて、秦漢時代の国家と地方統治システムの総合的な考察を進める準備となっている。
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今後の研究の推進方策 |
1,平成26年度は最終年度となるが、これまでにつづいて長江流域出土資料や漢簡の資料・研究書などを収集・整理し、里耶秦簡の用語集の作成を継続して行なう。これは秦漢時代の文書伝達と交通システムの基礎となる用語を中心として、その実態を理解する基礎とする。 2,平成26年8月に、甘粛省と西安を中心とする先秦・秦漢遺跡の現地調査を行なう。この調査では、秦帝国と漢王朝の中心となる地域の遺跡を対象とし、地方社会との関係を解明する基礎とする。 3,年度内に愛媛大学で国内外の研究者を招聘して、公開講演会を開催する。また共同研究者との討論をふまえて、秦漢時代の地方行政と情報伝達に関する簡牘の機能や、情報処理の規格と原理、地域社会の特色について考察する。 4,本年度は、これまで進めてきた『史記』『漢書』研究と、里耶秦簡の分析、漢代西北の敦煌漢簡、懸泉漢簡、居延漢簡などの分析をふまえて、秦漢時代の国家と統治システムについて、現時点での総合的な見解を提示する。それは秦漢時代の中央である西安と、長江流域の南方社会、漢代西北の辺郡社会を、国家に共通する統一性と、地方社会の地域性をふくめた特質解明の基礎となる。成果の一部は、秦漢史、簡牘、古文献に関する国際学会のほか、学術論文などでを公表する。同時に、残された問題点や課題について整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入予定の図書の入荷が遅れたため。 すでに図書を購入しており、すみやかに手続きをする予定である。
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