研究課題/領域番号 |
24520805
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
矢澤 知行 愛媛大学, 教育学部, 教授 (60304664)
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キーワード | 国際情報交換,中華人民共和国 |
研究概要 |
漕運・塩流通の実態解明に向けての研究を進展させることができた。まず,前年度までにリストアップした多様な商人集団や官僚のうち,分析対象となる人物や一族を絞り込み,それらの出自や経歴,拠点都市や活動範囲,相互の関係などについて明らかにすることができた。とくに両浙都転運塩使司において実務にたずさわった運輸・財務官僚については,異動歴,官僚としての事績などに加え,官僚相互の人間関係などに踏み込んだ分析をすることができた。 本年度も(財)東洋文庫,復旦大学歴史地理研究所などにおいて関連史料を収集することができた。また,CNKI(中国学術情報データベース)などを通じて関連文献を網羅的に収集し,文献データベースEndNoteに入力して整理と分類を行った。 本研究の成果の公表に関しては,学会発表2件(「碑刻等資料から観た元代両浙社会 ~元代中期の一官僚,李守中に関する諸史料をてがかりに~」(2013年11月,資料学研究会),「元代淮浙の官僚・豪民・塩商について」(2013年12月,四国東洋学研究者会議))を行ったほか,著書2編(「モンゴル時代の中国における祭祀と巡礼 ―「官」と「民」のはざまに見えるものー」『巡礼の歴史と現在』岩田書院,2013年10月,pp.183-203),「元末地方政権による「外交」の展開 ―方国珍,張士誠を中心として―」『外交史料から十~十四世紀を探る』汲古書院,2013年12月,pp.327-368)および学術論文2編(「元代の両浙都転運塩使司について」(『愛媛大学教育学部紀要』60, pp.259-268,2013年10月),「碑刻等史料から見た元代両浙社会 ~元代中期の一官僚,李守中に関する諸史料を手がかりに~」(『資料学の方法を探る(13)』,pp.47-54,2014年3月)を公刊することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
関連する基礎資料や地方志等史料・稀覯史料の収集とそれらの整理・解読については,当初の計画通り達成することができた。また,本研究の中心課題である元代の両淮・両浙地域における漕運・塩流通の実態解明についても,両浙都転運塩使司の運輸・財務官僚を中心に踏み込んだ分析を行うことができた。 研究成果の公表についても,研究発表・学術論文の執筆ともに当初の計画通り進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究と史資料の収集を継続しつつ,次の三点について発展的な研究を行う。 第一に,本研究を元末の諸勢力に関する研究と接続させることをめざす。とりわけ両淮に興り浙西に拠った張士誠政権や,浙東を拠点とした方国珍政権について,その経済的基盤に塩業や漕運があり,本研究で分析の対象とした商人集団や官僚の一部が各政権の維持に深く関与していたことを具体的に明らかにする。 第二に,拠点都市の空間構造や社会構造に関する分析を行う。応募者はこれまで,両淮における塩政の拠点としての揚州,両浙における漕運の拠点としての蘇州,また海運の拠点港であった太倉・劉家港などの位置づけを歴史地理学的な視点から明らかにしてきたが,本研究では,拠点都市の内部における商人集団の位置づけなどについても考察の幅を広げていきたい。 第三に, “航海世家”とも称される,アジア海域に広く進出した海商の動向について検討を行う。 そして,最終的に,漕運・塩流通の実態や商人集団・官僚の動向という側面から元代の社会経済の実像を具体的に明らかにするとともに,元代江南の社会経済と宋代・明清代との連続性あるいは質的相違,モンゴル政権による江南経済的支配の特質やその世界史上の意義などについて考察をまとめる。研究の成果は,順次,研究発表と研究論文(投稿論文,紀要論文)を通じて公表し,3月までに,研究報告書『元代の両淮・両浙における漕運と塩の流通(仮題)』を刊行する。同時に,元代の漕運に関する専著『元代江南の漕運と商人集団に関する研究(仮題)』と,元代江南経済史について平易に記述した概説書『モンゴル・元代江南の経済と社会(仮題)』の公刊に向けて準備を開始する。
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