研究課題/領域番号 |
24520809
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
金子 肇 広島大学, 文学研究科, 教授 (70194917)
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研究分担者 |
笹川 裕史 上智大学, 文学部, 教授 (10196149)
水羽 信男 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (50229712)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / 中央・地方関係 / 戦後内戦期 / 中華人民共和国 / 農村 / 都市 / 基層社会 |
研究実績の概要 |
1.本研究計画の目的は、戦後内戦期から中華人民共和国初期に至る中国について、国家権力の社会への浸透如何、国会による社会の制度的組織化如何という視点から、<国家-社会>関係の変容と再構築の過程を明らかにすることにある。今年度も、昨年度に引き続き研究実施計画に示した「研究実施の基本的サイクル」に基づき、ほぼ順調に研究を進めることができた。 2.研究代表者の金子は、中華人民共和国初期の上海を対象として、「工商業税民主評議」(同業団体による営業額評定と営業税納付)の実施、及び朝鮮戦争時の抗米援朝運動下における「愛国業務公約」の制定と工商同業公会との関係について論文を発表した。また1930年代にも視野を拡げ、土酒(地酒)業者の脱税をめぐる行政訴訟を分析し、本研究計画が対象とする時期の同業団体の活動を、より長期的な視座から捉え返そうと試みた。一方、研究分担者の笹川裕史は、日中戦争期から戦後内戦期に至る中国の総力戦体制が基層社会に及ぼした影響について論考を発表するとともに、戦争と災害との関係性という中国近代史の未開拓な問題についてシンポジウム報告を行なった。また、同じく研究分担者の水羽信男は、これまで継続してきた1930年代から人民共和国初期に至るリベラリストの動向を追求する作業の一環として、新たに儲安平と王造時を取り上げ、彼らの政治思想の展開を考察する論文を公表した。 3.本研究計画に必要な史料を収集するため、今年度も金子・笹川・水羽は上海市档案館に赴いて文書史料の収集に当たった(8月実施)。なお、研究打ち合わせ会については、上海の史料調査の際に行ったものに加え、東京で1回行うことができた(2月、於上智大学)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】に記した「研究実施の基本的サイクル」とは、<①国内外における史料の発掘・収集・解析→②メンバー各自の個別実証研究の深化→③研究発表・論文発表を通じた相互の意見交換→④研究視点・問題意識の検証と再構築→①国内外における新たな史料の発掘・収集・解析→……>の反復と積み重ねである。 今年度も8月にメンバー3人で上海市档案館において档案史料(文書史料)の調査・収集に当たった。上海における档案史料の解析を中心としながら、各メンバーそれぞれが本研究計画に関わる史料解析を精力的に進めた成果として、【研究発表】に示すような実証研究を論文・研究発表等の形式で公表することができた。 ただし、昨年度から中国の文書館における史料公開状況が悪化してきたため、上海档案館もその例外ではなく档案閲覧の公開性が著しく制限されるようになった。この点は今後の史料収集において少なからず困難さを伴うことになるだろう。 なお、今年度も2回の研究打ち合わせ会を実施し、意見交換を通じて相互の研究課題に関する認識を高めることができた。また、研究分担者の笹川裕史が代表となった基盤研究(B)「東アジア諸地域の比較からみた戦時戦後中国の社会秩序と政治文化」が今年度より採択された。本研究計画の内容と密接に関わる同科研には金子、水羽も研究分担者として参加しており、本研究計画を進めるメンバーの連携は一層密になっている。 以上の点から、今年度も研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.新年度も基本的にこれまでの推進方策を継承する、すなわち、本年度における研究の進捗状況を踏まえつつ「研究実施の基本的サイクル」に即して作業を継続する。 2.史料の収集・解析を不断に継続する。海外において史料収集の対象とする機関は、本年度と同様に上海市档案館を主とする。ただし、同档案館の史料公開状況の悪化に伴い、新年度は上海図書館の積極的活用も検討する(同図書館は昨年度は利用)。 3.引き続きメンバー各自の個別実証研究を掘り下げていく。金子は上海を対象とした都市税政・同業秩序と同業団体との関係を、笹川は農村基層社会の変容と地域秩序の実態を、水羽は知識人・リベラリズム研究の視点から都市社会の変化を、それぞれ分析していく。 4.次年度は本研究計画の最終年度ということもあり、相互の意見交換とそれを踏まえた研究視点・問題意識の再検証を踏まえつつ、これまでの研究実施を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度助成金より残額が残り次年度に繰り越されるのは、購入した図書の価格合計が予定より安価だったこと、また発注した図書が品切れ等のため購入できなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越された助成金と次年度分として請求した助成金を併せた使用計画は、今年度の枠組みを基本的に踏襲する。最終年度となる次年度は、研究分担者の配分をなくしたため、その分を研究代表者の国内外調査旅費、中国・台湾等で公刊された史料類の購入を中心とした物品費に充てていきたい。そこに若干の謝金等が加わる予定である。 繰り越された助成金は、主に昨年度購入し残した図書の購入に補填していく。
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