〔最終年度に実施した研究の成果〕 (1)調査の実施 6月、中国の山西省・内蒙古自治区において、漢印ならびに漢代の遺物・遺跡の実見調査を実施した。このほか、2月~3月にかけて、和泉市久保惣美術館、岩手県立博物館、篆刻美術館(古河市)、国立歴史博物館(台北)、中央研究院文物陳列館(台北)でも漢印・漢代遺物の調査を行った。これらの調査をとおして、漢印(亀鈕印)の造形や制度の変遷について、いっそう具体的な知見を得ることができた。 (2)成果の公表 8月、第9届中国中古史青年学者国際会議(於武漢大学)において、研究成果の一部を報告した。また、大同市博物館(6月)・広西師範大学(11月)・武漢大学(11月)でも、本研究の成果を取り入れた学術講演を行った。 〔研究期間全体を通じて実施した研究の成果〕 漢代亀鈕印の成立・展開に関しては、①武帝期以前から私印に亀鈕を用いる習慣が広範囲に存在していたこと、②王莽期に造形上の新しい展開がみられ制度が充実してくること、③造形のバラエティについては地域差よりも時代差のほうが強く影響していること、の3点が明らかになった。このうち②③に関しては、研究開始前には武帝期における大きな変化を想定していたが、研究の結果、むしろ前漢後半期の変化のほうが重要であったらしいことが示唆された。これは、印制と関わる政治思想・官僚制度の展開過程とも合致しており、両者を結びつけたさらなる検討が急がれる。とりわけ、王莽期における亀鈕印には、王莽の行った官制改革と連動した独特の運用がみられ、注目に値する。この問題に関しては、現在、学術論文の形で成果の公表を準備しているところである。
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