研究課題/領域番号 |
24520817
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田口 宏二朗 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (50362637)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中国 / 明代 / 河北 / 経済史 / 制度 / 漕運 / 南北 |
研究実績の概要 |
本年は、これまで行った研究をより広い経済史の枠組みに位置付ける作業を試みた。 第1に、本課題で重点的に扱った各種数値史料、とりわけ人口(戸口)・田土統計の利用の可能性を検証した作業(部分的成果は一昨年度、国内にて発表した)を基礎に、中国史における長期経済統計分析の限界と効用とを示した。具体的には、帝政下の政書・地方志等、各種漢籍に記載される数値データそのものは、各時期の住民数・農地面積を正確に示すものではない。したがって、国民経済勘定に関してA.マディソンが行った長期経済統計の集大成を出発点として、リジッドな比較の作業を行うにあたり、19世紀以前の状況にかぎっていえば、問題点はかなり大きい。ただ、短期的スパンを対象とし局所的な分析を加える際には、漢籍史料の数値データに利用価値は一定程度存在すること示した。 第2に、漕運(首都への穀物輸送政策)を中心にした「制度」史の復元を図る作業も継続した。漕運政策と南北領域「理念」との絡みについては、英語論文一篇が、今年度中にシンガポール国立大学出版社から刊行される論集に収められる予定である。またその過程で、「制度」という用語のターミノロジー自体に関する考察も進めた。この部分は、清代江南経済の発展を扱った論集に対する英語書評の中でも触れたが、上記1の問題と絡めて「「経済成長」の中国史」と題した論考を公表した。 他には、中国における資本主義・技術・ジェンダー・経済変動を扱った論集の翻訳、近年の大気汚染をめぐる国際シンポジウムにおけるペーパー執筆、および近世各国の公共財供給に関する国際ワークショップでの議論にも参画したが、いずれも理念・制度・地域経済変動のあらたな分析視角の獲得を目指す本研究の遂行において、大きく裨益するものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、数値史料の利用に関わる理念的アプローチの構築に努めたが、一定程度の成果は挙げえたと考える。また、昨年度・一昨年度も部分的に示した「中国の制度」をめぐる方法論上の問題も、新制度学派における内生的かつ発展段階論的用法と、旧来の中国史研究における「典章の系譜」という用法をどのように組み合わせるか、というあらたなステップに到達しえた。
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今後の研究の推進方策 |
当面の作業課題は以下の通りである。第1に、近年の数量史分析を踏まえた「近世中国の経済成長論」およびその前提となる「中国独自の制度」、という論点を検証すべく、本研究にて重点的に行なってきた「国家政策」「地域経済」「制度」という問題群を総合、nested-institutionsという枠組みを暫定的に提示し、より包括的な議論のプラットフォームに載せたい。具体的には、昨年度の作業内容をベースに、8月の国際経済史学会(京都)、年度末のグローバル・ヒストリー・ワークショップ(大阪)にて、複数の英文論考を発表する予定である。したがって、清代の档案史料データベースを購入するという当初の予定を変更し、本年度の予算の大部分は図書資料の購入および英文論考執筆に充てることととしたい。
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