本年度の研究活動は以下の通りである。 第1に、本研究で収集した数値史料などを基にして、特に要素賦存(人口・土地)をめぐる官撰史料の有用性と限界を特定する作業を行った。ここから、近年における中国前近代の経済成長に関する諸研究を回顧した上で、数量史研究としての問題点を、特に分析単位の設定という側面から提示した。具体的な内容については、8月に京都で開催された世界経済史会議における「東アジア前近代の内包的成長」と題したパネルにて、英語の報告を行った。報告内容は近々公刊することを目指している。 第2に、数値史料の収集と並んで本研究の中心的テーマの一つである、明清代漕運と「世界観」の問題に関して、聊城大学運河学研究院(中国・山東省)の招請を受けて中国語での報告を9月に行った。またこの機会を利用して、当研究院が収蔵する各種の運河関係史料に関する調査も行うとともに、近年大いに復元されつつある聊城(東昌)から臨清に至る大運河の実地踏査も経験することがかなった。 本研究に直接関係する研究活動は以上の通りである。この他、各種国際ワークショップでの報告や民国期の経済史に関する論考の執筆も行った。詳細は省略するが、この過程で、より緻密な制度論が中国史のみならず経済史全体で求められていることを再認識した。歴史的な構造的実体に対する汎通的分析手法の模索は、明代を対象とした本研究と、田口が同時に進めつつある民国期の研究とも通底する問題意識である。
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