計画の最終年度にあたる本年度は、これまで収集および整理した史料の最終確認作業を行うとともに、全体を統合し、内容別に整理する作業を行った。さらに、昨年度より取りかかっている貴族家門の婚姻関係の調査を継続し、本研究の対象期間である1663年から1740年の期間に帝国直属身分を有した貴族家門の姻戚関係の情報収集が完了した。このような史料の整理とともに、永久帝国議会および帝国国制史に関する先行研究との照合作業を行い、本研究の研究史上の位置づけについて検討した。 このような作業から明らかになったこととしては、帝国等族相互および皇帝と帝国等族の関係は、婚姻関係も含めて非常に多種多様な関係にあり、その関係は帝国議会の審議事項においても反映される傾向にあるが、審議対象によってその関係も変化するという非常に動態的な関係性のあり方である。帝国議会の中で執り行われた儀式・儀礼の中に同時代の秩序感が反映されていると考えることができるが、その秩序感が同時代のさまざまな審議事項にストレートに反映されるわけでは必ずしもなく、多様な政治的思惑と人間関係が絡み合いながら、非常に複雑な様相を呈している。この点は選帝侯位の問題をめぐる議論の中に如実に表れている。 この複雑な関係を成り立たせている同時代に特有な現象が、さまざまな場面で行われている贈り物である。従来の研究においてもパトロン関係という点でインフォーマルな関係を重視する指摘があったが、この関係を支えていたのが贈与・贈り物であった。永久帝国議会の開催地のレーゲンスブルクや皇帝の宮廷があったウィーンにおける贈与の実態の一部は、都市ハンブルクの記録から読み取ることができた。 婚姻関係を含め複合的な観点から皇帝と帝国等族および帝国等族相互の関係を検討する必要があり、その上で永久帝国議会の審議内容を検討する必要がある。
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