研究課題/領域番号 |
24520823
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小田中 直樹 東北大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (70233559)
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キーワード | 19世紀フランス史 |
研究概要 |
郡長をはじめとする郡行政当局担当者が持っていた官選候補適格者のイメージに接近するべく、大西部地方に属する25県のうち、すでに2009年に日本学術振興会特定国派遣研究者として訪問し、一種の予備調査として資料調査を実施したイル・エ・ヴィレヌ県を除く24県の県文書館において資料調査を実施した。調査の対象としたのは、おもに分類系列3M「選挙」および、県によっては1M「県行政一般」、4M「ポリス」、Z「郡庁」に所蔵されていると想定される、官選候補適格者をめぐる、県知事と郡長のあいだの往復書簡(corrrespondance)と、後者の手になる報告書である。分析の対象となりうる各県文書館所蔵資料を探索・閲覧・複写または撮影したうえで、これら資料から、郡長が提示した官選候補適格者の社会経済的属性に関するデータを抽出した。 ここから得られた知見を、Anceau[1999]などにもとづくデータや、2012年度に国立中央文書館において実施した資料調査から得られた知見と相互に比較し、「ギャップ」と「イメージ」という観点から検討することにより、とりあえず1852年の大西部地方について、以下のような結論に達した。すなわち、商工業者は、中央から郡に至るまで、一貫して高く評価されている。地主は、県を除き、さほど高く評価されていない。自由専門職と公務員は、評価が動揺している。ここから、第二帝制期においては、商工業者の評価が高くなってゆくことが想定されることと、第二帝制がフランス経済における商工業の比率の上昇をはじめとする「近代化」の時期であることが想定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1852年の大西部地方という時空間的な限定を付したうえであるとはいえ、政治エリート(たるべきとされた存在)の社会経済的属性について、「商工業者、地主、自由専門職、公務員」という4つの範疇にわけて、中央の次元から郡の次元に至るまでの評価の変化と異同を明らかにできた。そのうえで、伝統的で農村的な「名望家支配」と、近代的で都市的な「近代化の時代」という相対立する2つのイメージで語られてきた第二帝制の性格について、後者の色彩のほうが強いという評価を下すことができた。 また、政治エリートの社会経済的属性に接近する際の方法として「ギャップ」と「イメージ」という観点を採用することを試み、それが一定の意義と有用性を持つことを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度に引続き、先行研究と、当時刊行された各種資料を収集し、分析する。また、主要対象地域たる大西部地方と比較対照するべき地域として採用したラングドック・ルシヨン地域圏を構成する5県の県文書館における資料調査を実施する。調査の手法などについては、基本的に前年度を踏襲する。 政治エリートに求められた社会経済的属性について、2つの地域(すなわち30県)のあいだの異同の存否を確認する。また、存否が存在した場合には、その特質を明らかにするとともに、その原因・理由について考察する。これら検討をもとに、政治エリートに求められた社会経済的属性と、地方社会の諸特徴の関連について、地域(あるいは県)ごとの特質に留意しつつ、モデルを構築する。 政治エリートの社会経済的属性と地方社会のあり方との関連について、フランス第二帝制期以外の地域・時期に関する先行研究を収集する。これら研究における所説と本研究において構築されたモデルを比較対照し、それによってモデルの頑健性(ロバストネス)を検証する。
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