研究の最終年度にあたる平成26年度においては前年度と同様に白人の人種意識としての「白人性」概念を分析概念として、市民権における白人性の解体について検討をおこなった。 本年度の具体的検討対象として取り上げたのは、奴隷制廃止から3年経過した1868年に成立した合衆国憲法修正第14条である。同条は合衆国市民の「平等な特権と免除」、「法の適切な手続き」、「法の前での平等」を保障した市民権保障条項として知られるが、その目的は黒人の市民資格を否定したした南北戦争以前の合衆国最高裁判所判決(1857年の「ドレッド・スコット判決」)を覆し、市民の基本的権利一般における白人性の解体を図ることにあった。 考察においては、奴隷解放直後の解放奴隷に認められた権利の実態把握、修正第14条制定の契機とその具体的制定過程、および諸州における同条項案の承認過程を追跡することにより、市民権における白人性の解体過程を検討した。 以上の作業をつうじて明らかになったのは、修正第14条の立案者は合衆国市民権という新たな市民権の範疇を創造することにより、解放奴隷のみならず、戦前の北部自由州において法的差別を被っていた自由黒人の市民権をも保障することにより、戦後の国家再統一と国民統合という難題を解決しようとしていたことである。しかしながら、それと同時に、修正第14条において保障される合衆国市民の具体的な権利が明示されなかった事実の検討からは、市民権の最終的保障主体を州とみなす伝統的な国制観に同条項の立案者たちが配慮せざるをえなかったためであったことも明らかになった。 したがって、修正第14条による白人性解体の意義は合衆国市民権における平等原則の樹立にあるといえるものの、同条は州市民権における白人性の解体までをも可能にしたものではないことが明らかになった。
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