研究課題/領域番号 |
24520825
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
田中 良英 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20610546)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 西洋史 / ロシア / 近世 / 地方行政 / 官僚 |
研究概要 |
18世紀ロシア帝国における地方行政官の動向を対象に分析される「中央-地方関係」を一つのモデルに、近世西洋世界における国家統合の実態解明を目的とする本研究では、初年度にあたる平成24年度において、まずは(1)基礎的データの整理として、2008年にロシアで刊行された人名録『地方の行政官達:1719~39年』に記載されている、県知事・副知事、地方長官・市長官、およびそれらの職務代行に任命された人員1200名あまりの経歴について、出身身分・民族性・就学歴・勤務歴など個人情報の数量的整理を進めた。具体的には、当該人名録では姓名順に記載されている個人情報を、県・地方・郡など地域単位で再整理すると共に、出身地および出身身分、前歴、任期などを数量化することに努めた。 それと共に、(2)国内機関での調査として、ロシア関連の文献に関し日本で有数の質と所蔵量を誇る北海道大学を中心に、その他、東京大学および一橋大学所蔵の露語・欧語文献を活用しながら、17~18世紀ロシアの地方行政制度とその実態に関する研究史の把握と整理を進めた。この作業においては、シベリアをはじめ、ロシア南部・東部など辺境地帯の地方行政官および軍司令官の人事・活動については、史料集の刊行を含め、近年一定の関心と活発な成果が見られる一方で、本研究が主たる対象とするヨーロッパ=ロシア地域に関しては、ほとんど先行研究が見られない事実も改めて確認された。しかし米国の学術誌『Kritika』で2012年に地方史の再検討が提唱されたり、近世ヨーロッパ国家の特徴として、法的・民族的・宗教的・文化的な多元性を前提とする「礫岩国家」の性格が日本でも着目されたりしている点を鑑みれば、むしろロシア古来の領域であり、かつて諸公国が分立する状況にあったヨーロッパ=ロシアに関し、その「礫岩性」の有無を検討することは、やはり大きな意義を持つものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度には、本研究全体で意図していた「中央-地方関係」の実態や国家統合の効率性といった構造史的な視点(マクロ・ストーリア)と、実際に官僚に任用された中小貴族の個人史・日常史(ミクロ・ストーリア)との接合のうち、人名録『地方の行政官達:1719~39年』(2008年)に含まれる個人情報の整理を通じて、前者のマクロ的な分析を完了する予定であったが、やや作業が遅れており、分類したデータから有意な結論を導くまでにはまだいたっていない。 理由の一つとしては、国内諸機関で渉猟した文献に含まれる地方行政官の任免関連の情報(個人名・期間など)との間に矛盾が見られるケースが多数存在したため、確認と追究に時間を要している点が挙げられる。また平成24年度の作業の過程で、本研究の前史となる17世紀ロシアの地方社会については、ロシア人によるものを中心に、近年多くの研究成果が現れている事実が判明し、18世紀以降の変化の意味を探る上で、それらの講読と整理が改めて必要となった点も影響している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、極力早い時点(平成25年6月末を想定)において、18世紀地方行政官の人材運用に見られるマクロな傾向の把握を完了すると共に、彼らの日常的活動実態に関するミクロな情報の収集に力点を移し、国内外での刊行史料・アーカイヴ史料の渉猟と分析に努める。 (1)国内での調査・報告:平成24年度と同様に北海道大学を中心としつつも、18世紀前半のヨーロッパ=ロシア地域の地方行政官の日常的勤務における行動様式(特に中央政府から送付された指令の履行状況)の分析に力点を移す。なお平成24年度は基礎的データの蓄積の時期と位置づけていたため、現時点で公表可能な研究成果は乏しいが、上述のマクロな傾向分析の成果については、平成25年度後半以降、学術論文・学会発表などの形で適宜発信することを予定している。 (2)国外での調査:平成25年度は、モスクワおよびサンクト=ペテルブルクなど、基本的にロシア中央の図書館・アーカイヴ(主としてモスクワの「ロシア国立古文書アーカイヴ(РГАДА)」、ペテルブルクの「ロシア国立歴史アーカイヴ(РГИА)」の各地域別のフォンドを想定)、さらに平成26年度はそれ以外の地方の図書館・アーカイヴに範囲を広げ、特に中央政府からの地方行政官の自立性の有無を中心に分析する予定である。なおロシアの中央・地方アーカイヴに関してはすでに、北海道大学スラブ研究センターが所蔵する目録の調査を通じ、チュメニ州など一部地域をはじめ、所蔵状況の確認に努めている状況である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、スラブ研究センターを中心とする北海道大学での2回の資料調査(各14日間)を予定していたが、本務校における学務・教育指導が予想より日程的に立て込んだ関係で、当初想定していた出張期間が確保できず、当該校での資料調査を1回にせざるをえなかった点を主たる理由として、研究費の残余が生じた。 平成25年度には、研究費の主たる使途として、国内での資料調査1回、ロシアでの資料調査2回を想定した旅費を計上しているが、これらと並行して、平成24年度の作業の遅れをカバーするべく、国内外の他研究機関からの文献取り寄せあるいは複写サービスを、申請時の想定より高頻度で活用することにより、作業の一層の効率化・迅速化に努める予定である。
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