研究課題/領域番号 |
24520825
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研究機関 | 宮城教育大学 |
研究代表者 |
田中 良英 宮城教育大学, 教育学部, 准教授 (20610546)
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キーワード | 西洋史 / ロシア / 近世 / 地方行政 / 官僚 |
研究概要 |
18世紀ロシア帝国における地方行政官の動向を対象に分析される「中央-地方関係」を一つのモデルに、近世西洋世界における国家統合の実態解明を目的とする本研究では、平成25年度において、平成24年度から進めてきた基礎的データの整理を完了した。これは1719~39年にロシア諸地方に任命された県知事・副知事、地方長官・市長官、およびそれらの職務代行1200名あまりの経歴について、出身身分・民族性・就学歴・勤務歴など個人情報の数量化を試みるものである。こうした整理の結果、少なくともピョートル1世による全般的改革(「ピョートル改革」)を経た18世紀前半の時点において、当初の予想に反し、ロシア国家を構成する各県・各地方ごとの地域的特徴が必ずしも明示的ではない点、また地方官僚と任地との地縁性が総じて希薄であるように見える点などが明らかとなった。これは近年の近世ヨーロッパ国家研究において、各国内の法的・民族的・文化的多元性に着目する「礫岩国家」論の観点からすれば、やや特殊な性質とも言える要素であり、それがロシア社会の独自性によるものか、あるいはピョートル改革による国家統合の試みの成果によるものか、さらに追究する必要がある。 このような新たな課題意識の下、平成25年度には実際の人事のメカニズムについても研究を進めた。具体的には、1726~30年に君主諮問機関として機能した最高枢密院や従来最高行政機関の地位にあった元老院の協働において、いかなる原則に基づき地方行政官の人選が行われたのか、刊行文献やアーカイヴ史料に含まれる議事録を中心に分析した。その結果、当該時期の地方行政官人事においては、辺境地帯の運営の困難などへの一定の配慮も見られたものの、現地出身者の登用といった地縁性を重視する原則は適用されていなかった点、特に中下層の官僚に関しては個人情報も十分に参照されていなかった可能性が析出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度にはそれまでの統計的整理を踏まえつつ、18世紀前半におけるロシア地方行政官の活動の実態(すなわち日常史的側面)の追究を開始する予定であったが、地域・個人に焦点を絞った個別事例研究までには踏み込めていない。その第一の理由として、数量的な分析の過程で、地域的な偏差が当時明示的ではなかった構図が予想外に判明したため、この要因に関する分析の必要が生じた点が挙げられる。特に中下層の地方官僚に関しては、依拠し得る先行研究も乏しく、自ら新たに追究する必要があった。なお、この作業の成果については、すでに脱稿した研究論文が平成26年度内に公表される予定である。 第2の要因としては、ロシアで利用を予定していたモスクワの「ロシア国立古文書アーカイヴ(РГАДА)」が、施設の修繕のために平成25年9月末まで利用できなかったこと(年度末に訪れた際にも一部は修繕中であった)が挙げられる。また実際に同文書館での作業を開始し、現地でしか閲覧できない目録や原史料を調査したところ、各地方ごとのファンドには史料が必ずしも体系的には整理されていない点、その一方で、むしろ元老院など中央行政機関のファンドに、地方行政関連の情報が含まれている点が明らかとなった。ただし、この後者の史料群には各種の情報が混在しているため、その中から地方行政に関連する内容を抽出する作業が新たに必要となった。とはいえ、今回中央行政機関の史料を確認できたことは、特定の地域のみに沈潜するのではなく、当時の地方行政全般の特徴を探究し、マクロな視点とミクロな視点を接合する上で大きな意味があったと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、大きくは2つの分野から成る。 (1)1730年代における地方行政官人事のメカニズムの分析:ピョートル改革後、1720年代の人事の特徴については、平成25年度までの調査により一定の知見が得られたが、その特徴が以後も継続的に目撃されるのか、さらに分析を続ける必要がある。この点については、19世紀に刊行された史料集を初め、中央行政機関に関連するアーカイヴ史料からも、人事の具体的過程に関する情報を抽出していく予定である。なお、1730年代のロシア政治史については、今回のロシア訪問により改めて最新の研究動向を調査したところ、いまだ従来と変わらず、十分に研究が進んでいない分野である点が明らかとなっており、本年度の研究にはそのような間隙を埋める意義もある。 (2)地方行政官の日常史的研究:平成25年度の作業において、むしろ地方単位の史料整理が体系的に行われていない事実が明らかとなったため、一旦は中央行政機関に集積された情報から、地方官僚の活動実態に関する内容を抽出する必要がある。その中で特定の地域および個人を複数選択し、彼らの経歴や勤務の実状に特化した個別事例研究を進めることで、18世紀前半の地方官僚と任地との関係の実態を探る方策を予定している。現時点では、平成25年度に明らかとなった、任地と良好な関係を構築した官僚、逆に現地住民から解任を求める嘆願書を提出された官僚のそれぞれをとり上げ、相互の比較を通じて、当時の地方行政に必要とされた官僚の特性や現地住民による官僚への評価基準などの実態を解明することを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本来、平成25年夏に利用を予定していたモスクワの「ロシア国立古文書アーカイヴ(РГАДА)」が、同年9月末まで施設の修繕のために利用できなかった結果、ロシア渡航の回数が予定より減少した点が最大の理由となる。この点に関しては、平成26年3月に予定より長期の滞在・調査を行う形で、作業効率の改善を通じてのカバーを試みた。 また国内旅費についても、平成25年度に、本務との関連で東京への出張が新たに複数回生じた際、史資料の閲覧・複写の機会が得られたこともあって、当初の想定よりも少額となった。 平成26年度には当初2回の海外渡航を計画していたが、海外渡航の回数あるいは日数を増やすことで、平成25年度までの調査を通じ新たに判明した課題への対応も含め、平成26年度での研究の完成に努める。 その際、作業のさらなる効率化のため、国内外の資料の取り寄せ・複写サーヴィスについても、従来より積極的に活用する予定である。
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