研究実績の概要 |
アラビア語、ギリシャ語、ラテン語の手書き羊皮紙文書を詳細に検討した結果、アラビア語の「ムルス」と「フルシュ」はウィラーヌスの二つの階層を示す一対の対称的な言葉ではなく、両者を「洗練された人(smooth men)」と「粗野な人(rough men)」という言葉で表現するのも適切ではないことがわかった。「ムルス」は既存の文書や名簿に記されていない者たちを示すために用いられた言葉であり、文書作成時に必要とされた言葉であった。 この結論は、これまでの研究者たちの見解とは大きく異なっている。一見、「登録された(registered)」ウィラーヌスに対する「登録されていない(unregistered)」ウィラーヌスの概念に類似しているようにも見えるが、全く異なった認識である。既存の名簿に記されていない者たちを示す言葉としての「ムルス」は、当時の文書作成の有り様と、既存のアラビア語名簿に基づいて作成された文書による土地・住民支配の現実を反映したものであり、ウィラーヌスの二つの階層とはまったく関係がない。もちろん、その存在を示す根拠ともなりえない。 この成果は、アメリカ中世学会年次大会(UCLA, 10 April 2014)で"Classification of Villeins in Norman Sicily"として報告し、「中世シチリアにおける農民の階層区分」として『西洋中世研究』6号(2014年12月)に掲載された。欧米の専門誌に投稿するために、英語版を現在作成中である。
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