研究課題/領域番号 |
24520829
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
根津 由喜夫 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50202247)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ビザンツ / 修道院 |
研究概要 |
本年度は、当初の計画を一部、変更し、中世初頭のローマにおける教会調査とグルジアにおける古代末期・中世のキリスト教史蹟の調査を主体として実施した。ローマについては、ビザンツ帝国と政治的関係が密接で、ギリシア系の教皇が多く輩出した6-8世紀の教会を訪ね、それらに残されたフレスコ画やモザイクを調査し、ビザンツとの文化的交流の実態を検証することが試みられた。他方、キリスト教古代末期にキリスト教を受容したグルジア王国は、ビザンツ教会文化圏に包摂されるものの、長い独立教会の伝統を誇っていたため、ビザンツ文化を一方的に受容するばかりでなく、両者の間には双方向的な交流と衝突があったことが想定された。グルジアの旧都ムツヘタのジュバリ修道院とサムタヴロ修道院、なかんずく王国西部の首都クタイシのモツァメタ教会(11世紀)、ゲラティ修道院(12世紀初頭)など内部にフレスコ壁画が現存する幾つかの教会や山間部に点在する中小の修道院、さらには主要な3つの洞窟修道院・都市集落遺跡であるダヴィド・ガラジュ、ウプリスツィヘ、ヴァルジアなどを訪問し、首都トビリシのグルジア国立博物館では当該時期の宗教美術作品を実見し、博物館付属のブックショップで貴重な文献も入手できた。これらの成果に基づき、これらと同時代のビザンツのそれとの比較分析が可能であり、そこから両者の相互関係、それらの壁画に込められた君主権力の政治的メッセージのあり方を探求することが可能となるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海外における調査活動がおおむね順調に進捗しており、必要な文献も当初、期待していた程度に入手できたため。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、ビザンツの支配下にあったが周縁部に位置し、民族構成も帝国中枢と異なるマケドニア地域、およびそれと隣接したアルバニアの調査と考察を実施する予定である。マケドニア地域に関しては、管区長官の座所だったスコピエと教会行政の中心であるオフリドの2つの都市を中心に調査を実施することを計画している。スコピエに関しては、ネレヅィ、聖パンテレイモン教会がビザンツ皇族の手で建立されているが、同市郊外にはマトカ村の聖アンドレア教会、スシチャ村の聖マルコ修道院など、ビザンツ時代の教会建築が現存し、それらの相互関係を現地調査によって解明することが見込まれる。ただし、現時点では、これらの施設に付随する文書資料の残存状態に関する情報が十分ではなく、その点が危惧される。これに対して、オフリドに関しては、ビザンツの文化的同化政策の中心地として、11世紀半ば以降、コンスタンティノープルから大主教が送り込まれ、それらの教会人が多くの記録を残しているために、現存する史蹟、建築物と文献史料との総合的分析はより円滑に進行することが期待できる。オフリドでは、11世紀半ばに大主教レオンによって建立された聖ソフィア大聖堂を皮切りに、周辺部にクルビノヴォの聖ジョルジェ教会、オフリド湖南岸の聖ナウム修道院、同東岸の聖母就寝教会など、11-12世紀に遡る教会・修道院群が存在している。11世紀末にオフリド大主教に任じられたテオフィラクトスは、多くの書簡を残し、帝国中央の宮廷貴族との交渉や、任地の社会生活や教会行政に関する情報を残しているので、それらを手がかりにこの時期のオフリド周辺の権力構造とそこで教会組織が果たした機能を再構成することは可能になると考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、マケドニア・アルバニアの実地調査を2週間程度の日程で実施する予定であり、それが最大の支出項目になっている。これらの調査に当たっては、現地でのデータの記録、集計のための携帯用ノートパソコン、携帯用ハードディスクなどのパソコン周辺機器、さらに薄暗い教会内部の壁画の撮影に欠かせないデジタル1眼レフ・カメラと望遠レンズなどの撮影機材の取得が不可欠である。以上の経費に加えて、ビザンツ史関係、とりわけ図像学、美術史関係の文献をこの機会にある程度、体系的に整備したいと考え、今年分でも計上されている。
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