本年度は、当初、計画していたウクライナへの調査旅行を同地の情勢悪化に伴って断念し、それに代わって、ハンガリー、ルーマニア、ギリシア3か国への調査を実施した。 ハンガリーでは、ブダペスト国立歴史博物館においてビザンツ帝国と中世ハンガリー王国の外交・文化的交流を伝える歴史遺産を調査した。特に、11世紀半ばにビザンツ皇帝コンスタンティノス9世モノマコスがハンガリー王に贈与したとされるエナメルの王冠や、12世紀に一時、ビザンツ皇帝マヌエル1世の養子となり、その後、帰国してハンガリー王に即位したゲーザ3世の墓所の副葬品を実見できたことは収穫だった。 ルーマニアでは、16世紀モルダヴィア王国時代に建立された代表的な修道院(アルボル、スチャバ、モルドヴィッツァ、ヴォロネズ、フモル)を巡り、オスマン帝国の脅威が迫る時代に終末の予感に襲われつつ黙示録の世界を描き出した同地の修道院壁画の実相を調査することができた。 次いでギリシアでは、ホシオス・ルカス修道院とアテネ郊外のダフネ修道院、ペロポネソス半島ミストラ遺跡の教会群を訪ねている。ホシオス・ルカスとミストラについては、ほど所期の目的を達することができたが、ダフネについては長期にわたる修復作業が終わっておらず、かろうじて内部の拝観はできたものの、十分な調査活動はできなかったことが遺憾である。
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