ヨーロッパ中世世界はながらく貨幣流通が最小限度の「自然経済」の社会といわれてきた。しかし現在ではそこに貨幣経済とはいわないまでも活発な市場経済と貨幣の流通をみる。そのなかで、973年頃から1279 年頃までのイングランドにおける貨幣システムは、きわめて特異である。銭貨のローマ帝国的イメージ、王国内における王権による単一銭貨の流通規制と定期的な型の変更、多くの貨幣製造場と製造人の活動、高品質で統制のとれた品位と重量などは、銀のとれないイングランドにおける王権の強さの象徴とされてきた。しかし、地域社会の名望家である貨幣製造人か作り出す信頼が品位と王権の権威と連動して流通を可能としたのである。
|