最終年度に当たる平成26年度では、マルセイユに昨年開館した地中海文明博物館で変形頭蓋を調査し、さらにパリ国立図書館や国立古文書館などで関連文献の収集を行った。さらにパリ人類学会雑誌のバックナンバー所収の変形頭蓋に関する論文を19世紀後葉から20世紀前葉にかけてすべてコピー・分析するとともに、数は少ないが、フランス民俗学者の論文も渉猟して、この慣行がフランスの民俗文化のなかでいかなる社会的・象徴的・歴史的な意味をもつのかを考察した。その結果、次のことが明確になった。すなわち、頭蓋変形とは新生児のみならず、母親にとっても、地域社会における社会化の一過程としての意味を帯びていた、とう点である。それをしも通過儀礼と呼ぶべきかどうか、確証がないため、にわかには判断できないが、たしかに一部の地域や時代では、この変形が単なる「蛮風」を超えて、社会的な成員となるための手続きとしての重要な意味を帯びていたとも考えられる。
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