研究課題/領域番号 |
24520846
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
服部 伸 同志社大学, 文学部, 教授 (40238027)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ドイツ / ホメオパシー / 民間治療 / マニュアル(手引書) / オルタナティブ |
研究概要 |
申請者が研究代表を務める同志社大学人文科学研究所の共同研究「大衆社会における身体・環境の操作-『マニュアル』の比較社会史」の一環として本研究は実施されており、研究会を通じて、地域・時代を超えた多様なマニュアルの社会史的な研究を知ることで、本研究を推進する上で有益な情報を得ることができた。 これまでの申請者の研究では、数百ページに及ぶ高度な内容をもつ家庭医学書と一般人向け健康雑誌の記事を中心に研究を進めたが、上記共同研究の研究会では、実際に自己治療・家庭内治療などを行う際に、人々がもっと簡便な医学書を使った可能性を指摘されていた。したがって、小型の簡便な手引書類についても考察することが求められていた。 夏のドイツにおけるフィールド調査では、帝政期から戦間期にかけて出版された小型の簡便な医学書のコピーを入手した。また、帝政期ドイツにおいてホメオパシーの普及に重要な役割を果たした民間人協会の活動に関する裁判資料などを入手した。それぞれ、史料の分析を開始している。 フィールド調査の成果も踏まえて、11月には人文科学研究所共同研究の枠組みの中で開催されたワークショップ「大衆社会における身体・環境『マニュアル』の比較社会史」において、「帝政期ドイツの民間人向けホメオパシー治療ハンドブック」と題する報告を行った。このワークショップでは、これまでの研究によって得られた知見を整理し、今後の研究方針を確認した。さらに、日本の漢方における民間人向け医学書との比較をするための予備作業として、日本の漢方とドイツのホメオパシーの交流に関するこれまでの研究成果をまとめて、民族学博物館主催の国際シンポジウム「ヒーリング・オルタナティヴス:ケアと養生の文化」において「日本の漢方におけるホメオパシーの影響:1950年代における交流」と題する報告を行い、内外の研究者・医療関係者との意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎的な研究課題として帝政期ドイツでホメオパシー治療を普及させるにあたって民間人協会の活動が重要な役割を果たしていたことはすでに指摘したが、このような協会に集う人々が、同時代の科学的医学にどのような不信感をもっていたのか、ホメオパシーに何を期待したのか、そして、ホメオパシー医療を自ら実践するためにどのような活動を行ったのかを解明するための史料としてボッシュ財団医療史研究所所蔵のホメオパシー協会関係文書の中から協会薬局裁判資料を複写し、その解読作業を開始した。 中心的な研究課題としては、ボッシュ財団医療史研究所ならびにヴュルテンベルク州立図書館、テュービンゲン大学図書館所蔵の民間人向け健康雑誌と家庭医学書を複写し、その内容の分析を開始した。とくに、同一タイトルで数十年にわたって改訂が繰り返された簡便な医学書があり、この医学書の内容が、時代とともにどのような変化したのかを知ることができた。また、大型の家庭医学書では科学的な視点が重視されていたことがすでに明らかになっているが、今回入手した簡便な医学書では、必ずしも科学的とは言えない民間知も取り入れられており、オーソライズされ、科学の装いをもったホメオパシーとは異なる、民間的なホメオパシー治療の存在を浮かび上がらす可能性もある。 今後の展開に向けた発展的な研究課題としては、日本の漢方医療に関する医学書との比較をするための予備作業として、両国におけるオルタナティブ医療の状況を比較史的に確認する目的で、1950年代における日本の漢方・鍼灸関係者とドイツを中心としたヨーロッパのホメオパシー関係者・鍼灸関係者の交流史を整理した。 研究所年度に完了するはずだった基礎的研究課題は、研究報告準備のために作業が遅れたが、研究報告準備の過程で、中心的研究課題は予定以上に進捗したので、全体としては、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の調査を踏まえた上で、高度な医学書と簡便な医学書の違いを意識しながら、ホメオパシー医学書の内容分析をさらに進めてゆく。また、簡便な医学書が戦間期から戦後にかけてどのように展開してゆくのかを明らかにするために、1920年代以降の家庭医学書の収集にも着手する。その際、ホメオパシー民間人協会などが発行したパンフレットや雑誌の記事、さらには一般家庭雑誌に掲載された健康記事なども、一種の医学書と考え、必要に応じて収集する。このため、8月から9月にかけて、ボッシュ財団医療史研究所、ヴュルテンベルク州立図書館などでの史料調査を行う。 ドイツのホメオパシーに関する事例と比較対照するために、日本の漢方通俗医学書を収集し、その内容を分析する。その際、家庭医学書として発行された図書とともに、一般雑誌に掲載された健康記事にも注意を払う。このため、国立国会図書館や国際日本文化研究センターなどでの史料調査を行う。 分析が遅れているホメオパシー民間人協会の裁判資料については、解読をさらに進めてゆき、ドイツでの史料調査の際に、必要に応じて不足する史料を追加収集する。 同志社大学人文科学研究所の共同研究を第18期(平成25年度から27年度までの3年間)も継続して行う。ここの研究会で、本研究の研究成果の中間報告を行い、共同研究のメンバーとその内容について討論し、研究の手法・方向性の修正や、分析史料追加の必要性が明らかになれば、軌道修正する。 上に述べた研究会での議論も踏まえた上で、昨年度のワークショップ、シンポジウムでの発表成果を本研究の中間報告としてまとめ、それぞれ論集・雑誌に投稿し、本研究の研究成果の一部として公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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