研究課題/領域番号 |
24520849
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
林田 敏子 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (10340853)
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キーワード | 西洋史 / イギリス史 / ジェンダー / 女性兵士 / マスキュリニティ / ミリタリズム |
研究概要 |
第一次世界大戦期のイギリスには、銃後の戦争協力にとどまらず、じっさいに戦場に足を踏み入れた女性たちも数多くいた。本年度はまず陸軍女性補助部隊の活動実態を概観した上で、部隊創設時に陸軍省との間で生じた軋轢(女性の地位や権限、制服、装備品をめぐる意見の相違)に注目しながら、軍隊という空間のなかで、いかにして「男の聖域」が守られたのかを考察した。さらに、Imperial War Museumに所蔵されている女性隊員の日記やメモワールの分析を通して、銃後と前線の境界をこえた女性たちが、どのような入隊動機をもっていたのか、また、自らの軍隊経験にいかなる意味づけをおこなったのかを探った。そこで明らかになったのは、陸軍と女性部隊は常に対立関係にあったわけではないこと、また、女性部隊の内部にも出自や待遇の差に起因する深刻な対立が生じていたことであった。両者の関係は単純な対立構図でとらえることのできないものであり、戦場におけるジェンダー関係は明らかな複層性を有していたといえる。 本年度の後半は、女性兵士のケース・スタディとして、フローラ・サンデスをとりあげた。サンデスはイギリス人女性でありながらセルビア軍に兵籍を有し、バルカン戦線で実戦にも参加した。イギリスにかぎらず、多くの国で女性が戦闘員資格を与えられていなかった大戦期において、女性であり、かつ兵士であることは、いかなる意味をもっていたのか。男と女、前線と銃後の境界を横断し、さまざまな空間と属性の間を行き来したサンデスの大戦経験を通して、戦場におけるジェンダー秩序の揺らぎについて考察した。以上の研究成果を「女性であること、兵士であること―バルカンの女性兵士フローラ・サンデスの大戦経験―」(山室信一他編『現代の起点 第一次世界大戦 第2巻 総力戦』岩波書店、近刊)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、陸軍女性補助部隊に所属した女性たちの言説分析を通して、戦時労働に対する彼女たちの意識や陸軍省との軋轢について考察した。研究をすすめるなかで、女性補助部隊内に深刻な対立があったことがわかり、「戦う女」の多様性についてさらに考察を深める必要性が生じた。そのため、当初の研究計画にはなかったケース・スタディを取り入れるなどしたが、研究目標はおおむね達成できたものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は陸軍女性補助部隊がおこした性的スキャンダルを中心に、「(戦場で)戦う女」に向けられた社会のまなざしを多角的に分析する。さらに、女性隊員たちが、こうしたバッシングにいかに対処し、自らの経験にいかなる意味づけをおこなったかを分析することで、「兵士(男)のマスキュリニティ」とは異なる「女のマスキュリニティ」がいかにして構築されたかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に購入予定であった複数の英文書籍の出版が遅れたため。 上記書籍が刊行されしだい、速やかに購入する予定。
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