研究課題/領域番号 |
24520850
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
阿河 雄二郎 関西学院大学, 文学部, 教授 (80030188)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 仏英関係史 / 境界域 / 海の国境線 / 海民の信仰 / 密輸 / マールテロゥ塔 / 沿岸地図 / グランド・ツァー |
研究概要 |
本研究の目的は、近世フランスを「海洋世界史」の視点から考察し、とりわけ第二次英仏百年戦争期のフランスとイギリスの関係を「境界域」としての英仏海峡の位置や役割に注目しつつ検証することにある。その第一歩として、本年度は、フランスの気鋭の研究者であるモリューの著作をもとに、英仏海峡の「領有」の問題を「領海」「漁業の専管水域」「関税取締り区域」「海軍の制海権」などを焦点に検討し、論文「近世の英仏海峡」(『関西学院史学』所収)にまとめることができた。そこからは、そもそも海洋に対する認識が「海洋的なイギリス」と「大陸的なフランス」では根本的に異なり、それが海洋政策にも表れていること、ようやく18世紀中葉にいたって、両国が歩み寄り、海洋全般の問題を討議(交渉)する条件が整ったことが明らかになった。18世紀に英仏海峡に「領海」「漁業の専管水域」など目に見えない境界線が幾重にも引かれたことは、今日のわが国の領海問題を考える場合にも重要なヒントを与えてくれる。 もうひとつ、本年度でとくに有益だったのは、英仏海峡にあるイギリス領のチャネル諸島(ジャージー島とガーンジー島)を調査できたことである。17-18世紀のチャネル諸島は密輸の根拠地として名高いが、調査の結果、イギリス当局が密輸を黙認したのは、チャネル諸島がイギリスに忠実だったことに加えて、境界域という特殊な事情にイギリス当局が配慮したことが、よく理解できた。この両義的なチャネル諸島の意味は、今日でも「タクスヘーヴン」といわれる金融・税制の優遇措置に見受けられ、やはり現地を訪れることの重要性を痛感した。チャネル諸島の調査により、近世の英仏海峡を取り上げる意味がより明瞭になった。次年度では、境界域としての英仏海峡を他の沿岸島嶼部とを比較検討することでさらに深め、「仏英関係史」の構築につなげたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の成果として、近世の英仏海峡に関する全体的な見地から、「領海」「関税取締り区域」「専管水域」など「海の領有権」をめぐる境界線の線引きの問題を軸に、論文「近世の英仏海峡」をまとめることができた。ここから得られた知見を、イギリスやフランスの最新の研究と突き合わせて、多面的に検討することが今後の課題となる。 また、英仏海峡に浮かぶイギリス領のチャネル諸島(ジャージー島とガーンジー島)を実地に調査できたことは、大きな収穫だった。研究代表者は、これまで英仏海峡に面した海港都市であるダンケルク、カレー、ブーローニュ、ディエップ、オンフルール、サン=マロなどに行った経験はあるが、今回の島嶼部調査は初めての経験であり、博物館の見学などで島々の歴史をはじめ、島民の伝統的な生活のさまを詳しく知ることができた。これらは、今後の研究のイメージづくりに欠かせないものとなった。 その一方で、9月前半はパリの国立図書館(BN)が休館だったため、予定していたその当時の海港・沿岸部関係の調査記録や法令集を閲覧できず、また、パリ大学の諸先生が夏季休暇中だったため、ベルセ先生やクルーゼ先生(パリ第4大学)を除けば、フランス海洋史研究で助言をえたり、意見を交換することが不十分となったのは残念なことであった。この点では、ル・ブエデク先生(南ブルターニュ大学)を中心に、南ブルターニュ大学、ブレスト大学、レンヌ大学では相互連携しながら海洋史研究が盛んにおこなわれているので、この関係を密にしつつ、今後の研究に取り組んでゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年の英仏海峡研究でえられた成果や知見をふまえて、次のふたつの課題を設定する。 そのひとつは、1685年のナント勅令の廃止によって故国フランスを追われたユグノー(プロテスタント)が、流浪の果てに、英仏海峡対岸の海港都市をはじめ、アイルランド、英領北米植民地などにどのように移住し、生活の拠点を確立し、やがて商業や情報のネットワークを構築していったかを検証することである。ここでは、第二次英仏百年戦争との絡みで、とくにチャネル諸島やアイルランドにわたったユグノーの動向に着目しつつ考察を深めたい。これに関しては、最近プスー先生(パリ第4大学名誉教授)が編纂した研究書を軸に講読し、先行研究の整理をはじめ、パリの国立図書館、国立公文書館、ソルボンヌ大学図書館などで史料を閲覧する。 もうひとつの課題は、第二次英仏百年戦争で英仏海峡のフランス側で軍事拠点となったブルターニュ半島とブレストの意味や役割を考察することである。ブレストは17世紀末に軍港・海軍工廠が建設されたが、今日でも地中海方面のトゥーロンと並ぶ海軍基地が維持されているので、まずはブレストの海軍工廠を見学し、艦船に関する基本的な造船・港湾技術の知識の吸収に努める。その際、ブルターニュ半島の沖合にあるウェサン島を調査し、海軍の戦略的な位置づけを確認するとともに、この島に住む人々の暮らしにも焦点をあて、沿岸島嶼部の「海民」の実態を、前回垣間見たチャネル諸島のそれと比較しつつ考察を進めたい。なお、ブレスト方面の調査にあたっては、プルシャス先生(ブレスト大学准教授)の全面的な助言と支援をうける。できれば、南ブルターニュ大学のル・ブエデク先生(海民史、沿岸貿易史、漁業史の専門家)にも面会して、研究面での助言をお願いする予定である。 。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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