本研究は、境界域としての英仏海峡に注目しつつ、フランスとイギリスの関係を、海峡を往来するヒト、モノ、情報の動態史として考察した。その結果、第一に、両国は第二次英仏百年戦争という対立状況にあり、また、両国には海峡(さらに海洋)をめぐる認識に大きな違いがあったが、その一方で、領海、漁業専管水域、税関の取締り区域など、海峡の「領有」に関わる交渉が進められ、相互理解や交流をはかる動きを検証できた。第二に、フランス奴隷貿易の構造とその特色を、奴隷船、積荷、資金調達など海事史の面から検討した。奴隷貿易は最終的に収益率の問題に帰着するが、イギリスとの比較を通じて、ヨーロッパ世界経済に与えた意味が確認できた。
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