研究課題/領域番号 |
24520852
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
轟木 広太郎 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (60399061)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 異端審問 / 南フランス / カタリ派 / 権力 / 知 / 投獄 |
研究概要 |
いくつかの異端審問記録、ギョーム・ペリッソンの年代記、ベルナール・ギーの異端審問官マニュアル、判決記録等の分析を通じて、異端審問制度を権力のテクニック、および真理探究(知)の方法の両側面から位置づけるという所期の目的に関わって、いくつかの知見を得ることができた。 ①投獄がこの制度の権力と知の面で極めて大きな役割を担ったこと。異端審問マニュアルは、異端容疑者が嫌疑を自白せず、しかも証言が十分でない場合には、安易に釈放してはならず、数年の幅の投獄により真実を引き出すようにすることを勧告している。ベルナール・ギーの判決記録も数量的にこの勧告を裏付けている。監獄では食べ物などの必需品は自分で入手せねばならず、それができない被投獄者にとっては過酷な環境であった。それは一種の長引かされた拷問として、最重要視された自白を引き出すための手段として活用されたのである。 ②異端に対する審問は、言葉のうえでのゲームという側面を持っていたこと。異端審問官は、異端容疑者とのやりとりのなかで裏をかかれない技術を求められた。このことは、罪の自認(自白)という結果に導くことがが彼らにとっていかに重要視されたかを、ひいては異端審問があくまで贖罪制度のひとつとして発展したことを物語る。 ③同じく同時代に拡大した、秘蹟告解と司教巡察との比較。秘蹟告解も、罪人から告白を引出して償いをさせる点は共通しているが、すべては聴罪司祭と信徒の間の秘密として扱われる。それに対して、異端審問では、それをスキャンダルとして引き立たせることが重要視された。たとえば、死者に対しても有罪宣告を行い、遺体を掘り返して市中引き回しにして火刑に処した。他方、司教巡察は第三者の告発・証言を活用して、罪を公に暴き立てる点は同じだが、その目的は様々な戒律違反を犯した聖職者と修道士を正常化することであり、消えない醜聞の刻印を押すことではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績に述べたとおり、所期の目的に照らして、いくつかの重要な知見を得つつあるが、多数存在する南フランスの異端審問記録の分析は、予定ほど進められなかった。これは初年度の計画がいくらか過重であったことが原因と思われるので、全体の研究計画に支障をきたすものではないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
まだ考察できていない代表的な異端審問記録の分析をはじめるとともに、当初の計画通り、以下の3つの課題を追究する。 ①教会組織によって、異端を裁くという目的と並行して、その異端者の魂を導くという逆説的な課題のために、どのような権力と知の方法が動員されたかを明らかにする。 ②異端審問に対する反抗の事例を検討することで、南フランス社会との相互作用を詳らかにする。とくにベルナール・デリシューの審問記録の分析。 ③異端審問と他の種類の「調査・審問」の方法とはどう結びつき、あるいはどう異なっていたのかについての検討を継続する。
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次年度の研究費の使用計画 |
異端、異端審問、中世南フランス、贖罪、司教巡察関係の研究文献および史料の収集に努める。またヴァチカンの古文書館に所蔵されている審問記録のマイクロフィルム入手のために海外出張が必要となるだろう。
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