研究課題/領域番号 |
24520857
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋本 裕子 京都大学, 事務本部, 教務補佐員 (90416412)
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キーワード | 骨考古学 / 地域間比較 / 婚姻後の居住 / 遺伝的な閉鎖 |
研究概要 |
国内所蔵の縄文時代人骨のデータ収集を継続して行った。今年度は歯の形態にかかわるデータ収集だけでなく、下肢骨の筋付着面における形態の確認作業も同時に行った。 歯の形態では、縄文時代後期と晩期では地域内での類似度が高く、他地域とは大きく異なるクラスターを形成することが確認できた。特に東海地域においては、男女とも非常に高い類似傾向を示し、婚姻においては東海地域圏内で通婚が繰り返されている可能性を推測できた。また、男性に比べて女性の方が類似傾向を示す数値が小さいことから、女性の方が婚姻に際して移動する距離が小さく、生まれ育った地域圏で婚姻後も居住する傾向が強いことが指摘できた。 これまで山陽地域でサンプル数が大きく年代が特定している遺跡は岡山県の津雲貝塚のみであったが、広島県の太田貝塚の年代が、新たな分析から特定された。それに伴い人骨出土数の多い太田貝塚の歯冠計測と歯の非計測的特徴のデータ収集を行った。山陽地域内の遺跡間比較を行うことが可能になり、データの収集を終了した。 下肢骨の筋付着面については縄文時代と同様の傾向を示す古墳時代と江戸時代の一部の資料について、その同一と差異について予備的な考察を行った。これらの成果については国際人類学民族学会議および日本人類学会で成果報告を行った。 また本研究の遂行中に英国で検討された縄文時代人骨の頭蓋骨内板に認められる病理痕跡については写真撮影の画像をもとに英国ヨーク大学のBrothwell博士と検証中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2013年度は10月1日に急な形での職場の異動があった。そのため、予定していた調査や海外に所蔵されていた資料のデータ収集がかなわなかった。異動の決定が海外出張中であったため、異動に伴う引っ越しがスムーズに行えず長期化してしまったことも原因の一つである。新しい職場での業務が予想以上に多忙であり、申請していた研究可能なエフォートの比率が大きく下がることとなり、年度の前半に行っていた研究成果の発表は次年度に繰り越す形となった。 歯の形態学的研究と同時に進行している下肢骨の研究は研究協力関係にある米国スミソニアン自然史博物館のOrtner博士の急死により研究を一時中断していた。しかし、スミソニアン自然史博物館の人類研究部Collections ManagementのHunt博士から、研究を遂行する許可を得て現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究がやや遅れているため、その分の作業に加えて予定していた作業を行う。特に調査許可を得ているオーストリアのウィーン自然史博物館とウィーン大学でのデータ収集は8月と9月に予定している国際学会での学会発表時に組み込み作業を進める。特にオーストリアの所蔵資料は、大正時代の発掘調査ののち、基礎報告のないままに交換資料として搬出されていることがわかっている。交換資料として選出されて経緯は、残念ながら残されてはいない。しかし、保存されている部位や特徴といった人骨そのものの情報については可及的速やかに人骨を研究する研究者の読者が多い雑誌への投稿を予定している。 国内でも発掘調査に伴い、縄文時代の人骨の出土が報告されており、使用可能な資料についてはデータを収集し、これまでの分析に加えて成果として報告する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度は10月に急な職場の異動があり、秋季に予定していた国内の調査委出張がかなわなかった。同様に海外への調査出張もできなかった。新しい職場では前の職場よりも本務にかかる時間数が多くなり、研究の比重を抑える必要があった。そのため予定していた出張旅費の費用分が次年度に繰り越しとなった。 予定していたオーストリアへの資料調査の出張は8月から9月にかけて、ヨーロッパでの国際学会での発表に合わせて行う。調査対象資料は日本考古学、形質人類学の両分野において速やかな情報公開が望まれているため、調査終了後はできるだけ早く成果の報告を行う。 国内出張のうち長野県北村遺跡出土人骨の資料調査が完了しておらず、当遺跡の歯の形態分析のほかに、下肢骨の筋付着面のデータおよび写真撮影についても調査する。
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