縄文時代出土人骨資料の通婚圏について研究した。三河湾沿岸の縄文時代遺跡群は、歯の計測と非計測的特徴の分析から、男女ともに非常に限られた狭いエリアでの婚姻が行われ、女性に比べると男性の方が分散域が大きいことが示された。三河湾沿岸部の縄文時代遺跡群では、限られたエリア内での婚姻が繰り返されることで、男女とも他地域より集約された集団となることが確認できた。新たに広島県の太田の資料を外群データとして用い、女性は特に伊川津と吉胡の形態距離が近縁の値を示した。男性は東北の中沢浜と大洞には差がなく、嫁入婚である可能性を示した。非計測的特徴でも、渥美半島の遺跡は他地域とは独立し近縁の可能性が強い。特筆すべき点は、非計測的特徴で示された山陽地域についてである。津雲と太田の遺跡間に明らかな有意差が認められ、津雲の遺伝的隔離は太田にも該当すること示された。 山間部の資料の中心となる長野県北村遺跡出土人骨は、データの収集が終了したので、今後速やかに公表の予定である。以上の分析結果は、国内外の学会で成果報告を行った。特に英国での発表は島国という類似環境のため、活発な意見交換が出来た。歯の研究を行うロンドン大学のSimon Hillson博士とCarolyn Land博士とは本研究期間終了後も長期的に共同研究を行うことで合意し、今後も相互協力の関係を築くことが出来た。 京都大学が交換標本として、オーストリアのウィーン国立自然史博物館へ寄贈した縄文時代人骨の標本については、資料の確認と基礎データの収集を行い、所蔵する日本コレクションについてもデータを収集した。これらの資料は過去に報告が一切なく、交換標本となった経緯についても日本には記録がない。今回観察した結果は、ウィーン国立自然史博物館に残された記録をまとめて迅速に公表する予定である。これは海外保管の日本文化財記録としてまとめる予定である。
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