研究課題/領域番号 |
24520866
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
松島 英子 法政大学, キャリアデザイン学部, 教授 (90157305)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / 国際情報交換 / イラン / 古代オリエント / フランス |
研究概要 |
本研究は2012年度にスタートした科研基盤研究A「イラン国立博物館所蔵粘土板文書の調査・研究」(代表国士舘大学・前川和也、松島は研究分担者)と密接な関連がある。すなわちイラン国立博物館・テヘラン館所蔵の楔形文字文書のうち、スーサおよびチョガ・ザンビルから発見された文書を調査・整理して出版を行うこと(基盤Aの主目標)に加え、本研究ではそれを発展させ古代オリエント世界におけるイランの位置づけを解明し、東西に影響を及ぼしたイラン古代文明の様態究明を狙っている。 このため松島を含む日本人研究者グループは、2011年度よりイランを訪れ、テヘランの博物館に所蔵されている文字資料を精密な写真と3次元スキャナを用いデータ収集してきた。そのデータの点検・確認作業は、松島も参加した2012年夏の現地調査で進展した。この研究活動には、科学研究費に加えて、2010年度よりトヨタ財団の助成(2013年10月末日終了)も受けた。 以上の研究成果は、トヨタ財団助成に対する報告の意味も兼ね、2012年度に第一回目の出版物として刊行することとした。初回の出版は、古代イラン文明の重要な担い手であったエラム人が残したエラム語のブリックの碑文を対象とした。これまで基盤研究Aの参加メンバーとともに収集したデータをもとに、松島(本研究代表者)が碑文の翻字、翻訳を行い、文章構造について論述し、国際日本文化研究センターの寺村裕史が3次元スキャナの解説をした『Brick Inscriptions in the National Museum of Iran, A Catalogue』の出版が実現した。 松島は基盤研究Aの研究分担者である他の3名とともに、2012年12月末にイランを訪問し、テヘラン博物館に上記の出版物を届けるとともに、スーサとチョガ・ザンビルを訪問し、遺跡の実態を調査して次の研究態勢作りに踏み出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に基づき、スーサ出土の楔形文字文書の一部(エラム語ブリック)の調査結果をまとめた『Brick Inscriptions in the National Museum of Iran, A Catalogue』の出版が実現したことは上述した。この出版はイランの研究界に大いに貢献するものとして歓迎され、日本人研究チーム評価を高めた。2012年度のテヘラン滞在中に、松島と寺村(基盤A研究分担者)はテヘランの博物館で特別招待講演を行っている。この出版物は、同様の資料を所蔵しているルーブル博物館関係者、研究に際し意見を求めたフランスの研究者にも送付し、高い評価を得ている。出版に際し日本人研究者チームが一丸となって取り組んだため、それぞれの専門分野の知識・スキルを集約することにも成功した。このように研究成果発表の諸段階を通じて、日本とイラン、日本とフランスの学術交流が進展した。 ただし、今回の出版で扱ったものはは数多いスーサ出土文字資料の一部である。少なくともエラム語ブリックに関しては、全体の約四分の一が未出版で残っている。これらを出版・カタログ化すること、さらに他の文書の研究・出版にも取り組む必要がある。文書は脆い素材である粘土版断片であるため、断片をつなぎ合わせる作業もあわせて行う必要があり、細かく根気のいる作業であるため、思いのほか時間がかかることがある。 以上の状況を総合して判断すると、研究成果の発表は取り扱い対象が一部とはいえ予想以上に早く実現した。その半面まだ困難な作業が残っているのが現状であり、「おおむね順調に進展している」と評価したが、実態は「かなり順調に進展している」というニュアンスを含んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」の欄で述べたように、今後も多くのスーサ出土文字資料を研究、出版しなければならない。これまでの期間に、資料の写真撮影、3次元スキャナーによる基本的なデータの収集はほぼ終了した。しかし楔形文字資料は、粘土版という凹凸がありしかも脆い素材で出来た資料を扱うため、現地(テヘラン・スーサ)の博物館に赴いて解読困難な部分を確認する等、細かい作業を繰り返す必要がある。2013年度はその作業を行うため、旅費を支出し夏期に現地調査を続行する予定である。 また、同様のスーサ出土楔形文字資料を所蔵しているルーブル博物館(フランス)やルーブル博物館付属研究院にも、足を運びたいと考えている。これは現地の夏期休暇時期を避け、冬または春に実現したいと考えている。 これまではエラム語文書をもっぱら扱ってきたが、スーサ及び近隣の遺跡から出土した文字資料には、アッカド語のものが多数含まれているので、今後はそれらも調査・研究対象に含めたい。 2013年度は少なくとも全体の約四分の一が未出版で残っているエラム語ブリックの出版を確実に実現し、さらにアッカド語文書、およびエラム文明の中心地のひとつマルヤーン遺跡からの出土文書の整理・確認・調査に務める計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究費の推進方策」に述べたように、研究活動は夏期にイラン出張を行い、テヘランの博物館に所蔵されている資料の調査を行うこととなる。またイラン高原の他の地域の遺跡訪問もあわせて行いたい。 ただしスーサがあるフゼスターン地域は、夏期は著しい高温のため研究活動は実質的に不可能である。したがって冬期または早春に時期を見て行うことも考えている。その前後の時期を見て、研究交流のためフランスも訪れたい。場合によっては、イランまたはフランスから研究者を短期に招請し、交流を図ることもありうる。したがって研究費の使用は旅費が主(7-8割程度)となる。 なお、研究書で日本では入手困難なものが多数あるため、書籍購入にも2-3割程度を充てたい。 小額になるが通信費も必要となろう。
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