研究課題/領域番号 |
24520866
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
松島 英子 法政大学, キャリアデザイン学研究科, 教授 (90157305)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 古代イラン / 古代エラム / 古代メソポタミア / 王碑文 / スーサ / タル・イ・マルヤン / イラン国立博物館 / イラン・日本共同プロジェクト第1回コロキアム |
研究実績の概要 |
2014年度は、二つの国際学会において、研究課題の成果を取り入れた発表を行った。 第一は、2014年11月5日-7日にパリ西=ナンテール大学において開催された国際研究集会「古代西アジアにおける女性の労働と社会的役割」における発表「エラム王碑文に見られる女性たち」“Women in Elamite Royal Inscriptions”である。イランの古代遺跡から発見されたエラム語王碑文に、王家の女性の名がしばしば言及されている例を集め、女性の役割を提示した。古代オリエント世界で王碑文に女性の固有名詞が出てくる例は珍しい。イラン古代のエラム人社会独特の傾向を明らかにするとともに、女性史の観点からも意義ある発表となった。 第二は、京都大学文学部付属ユーラシア文化研究センターで12月6日ー7日に開催された「イラン・日本共同プロジェクト第1回コロキアムー古代イラン・考古文献学における新たな展望」での発表、「タル・イ・マルヤン出土のフテルドゥシュ・インシュシナク王の碑文について」“ A Royal Inscription of Huteldush-Inshushinak from Tall-i Malyan”」である。従来はバビロニアとの戦いに敗れ、エラム中期のシュトゥルク王朝最後の王とされていた人物が、スーサから東方の町アンシャンに逃げ延び、そこで復権を実現したことを示唆したもので、メソポタミアとイランの歴史を見直す上で、大きな意味があると考える。またこのコロキアムでは、立案から海外からの招聘者との具体的交渉、その他様々な実務に携わったが、海外の研究者との交流促進という観点から、大きな収穫があった。 以上の研究発表のために、イラン国立博物館に所蔵されている未公刊資料で、我々が昨年度までにデータを収集している資料を、今年度は熱心に解読・分析した。成果は確実に進展している。2回の国際学会を通じて、国際的な研究協力のネットワークを広げることが出来たのは、今後の研究促進に大いに役立つことであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イラン国立博物館所蔵の楔形文字資料のうち、我々が昨年度までに写真および三次元レザスキャナーによるデータを収集が終了している資料の解読を、目下熱心に進めている。スーサ出土のブリック文書のうち300点余りについては、すでに2012年に報告書、E.Matsushima and H. Teramura (eds.), Brick Inscriptions in the National Museum of Iran: A Catalogue (Ancient Text Sources in the National Museum of Iran, Vol. Iとして公刊した。これに続いて、残りのスーサ出土のブリック文書百数十点を公刊できるよう、着々と準備を進めている。 また、同じくデータを保有しているタル・イ・マルヤン出土の文書についても、2014年度初頭から集中的に解読・解釈作業に取り組んでいる。こちらも近々海外の研究者に具体的な事柄についての問い合わせをする段階に入っている。しかし全体として断片を含め千数百点に及ぶ量であるため、時間がかかるのは否めない。また、私が取り扱っているエラム語文書は、エラム語自体がまだ十分解明できていない古代語であるために、文法や語彙のレベルでの困難を抱えながらの研究になっている。その克服のための研究論文・書籍の入手にもつとめた結果、相当の材料を集めることが出来た。 「研究実績の概要」欄にも記したとおり、文書解読・解釈の成果の一部は、すでに二度に及ぶ国際研究集会での研究発表に取り入れている。また、これらの国際研究会の出席者、招聘された研究者と、直接対面して、あるいはメール交信などの手段を用いて、具体的な事項について検討をすでに行い、また今後も行う段取りをつけている。 以上のように研究自体は相当順調に進展している。ところでこれを可能な限り早い時期に公表することについては、実務的・財政的見通しが必要であるが、この点ではなお課題が残る。そのようなわけで、「おおむね順調に進展している」と評価する次第である。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は私が一員をつとめる5か年計画で科学研究費基盤A海外(代表者前川和也、5カ年計画)、ならびに私が代表者となる科学研究費基盤Cの研究最終年度にあたるため、主として研究のとりまとめに従事する。 まず博物館所蔵王碑文ブリックに関し、2012年に我々が公表した報告書E. Matsushima and H. Teramura (eds.), Brick Inscriptions in the National Museumof Iran: A Catalogue (Ancient Text Sources in the National Museum of Iran, Vol. I) にみえるいくつかの誤植、誤記などを訂正、改良を行い、近い将来の海外での市販にそなえる。同博物館所蔵マルヤン(古代名アンシャン)楔形文字資料(粘土板文書およびレンガ碑文、主として前2千年紀中葉)の整理・分類を進め、資料を翻字・翻訳するとともに、3次元レザースキャナを用いて収集したデータをデジタルデータとつきあわせる。そしてこれらを、上述のAncient Sources in the National Museum of Iran続刊として、3Dデータ化した資料とともにイラン国立博物館に成果として提出する。なお、これらの資料の海外での公刊にむけて、イラン国立博物館と協議を重ねる。 また「研究実績の概要」「現在までの達成度」欄で述べたように、我々が2014年12月に京都において開催した「イラン・日本共同プロジェクト第1回コロキアム」は成功であったが、個々に招聘したS. Piran(イラン国立博物館)、P. Steinkeller(ハーバード大学)、K. De Graef(ゲント大学)、F. Malbran-Labat(フランス国立科学研究所)その他参加者の各報告を、私自身の報告とともに集約し、この報告書についても公刊にむけて、イラン国立博物館と協議する。 なお、研究成果発表については、その科学的水準を確保するため海外の一線の研究者と直接面談して打ち合わせる必要がありるため、必要に応じて経費支出が可能な範囲で海外出張を行う可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年12月6日~7日に京都大学ユーラシア文化研究センターで開催した国際研究集会Ancient Iran; New Perspectives from Archaeology and Cuneiform Studiesに当初招聘を予定していたフランス国立科学研究所の F. Malbran-Labatは、家族の病状悪化というやむを得ない事情により、ペーパー参加(当日は松島が全文を代読)となった。そのため招聘旅費として予定していた航空券・宿泊費を支出することが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
Malbran-Labatは本研究プロジェクトで扱う古代エラム語研究の第一人者であり、これまでに我々が行った出版について、常に惜しみない学術的援助と協力を続けてくれた。やむを得ない事情により来日しての協力は不可能であるが、こちらからフランスに赴き面談・相談することは可能である。そのため時期を見計らって、出張し研究打合せを行う予定で、そのための支出に宛てる計画である。
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