研究課題/領域番号 |
24520867
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
池谷 信之 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (80596106)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛍光X線分析 / フォッサマグナ西縁 / 判別図 |
研究概要 |
先史土器の「フォッサマグナ西縁」をはさんだ越境的移動を、蛍光X線分析法によって判別するためのデータベースの構築が、本研究の第1の目的である。それに基づいて土器の「搬入」に伴って起きる「模倣」と「地方型式化」という受容過程を分析し、土器移動の動態的モデル構築を展望することが第2の目的となる。 本研究申請時点で67か所、約1500点の基準資料を分析済みであり、平成24年度はフォッサマグナ内外の判別図の適用範囲の検証と拡張を目指して分析を継続した。主な分析対象は、愛知県~三重県内および関西地方を中心とする古窯址出土須恵器等や瓦と、同地域出土の土師器で、約300点を蛍光X線分析装置によって測定した。 これらの資料の分析結果を、Fe/Si・Ca/K・Zrの3つの指標を用いた判別図に追加してプロットしたところ、すべての資料が「フォッサマグナ西縁の外側」に位置したことから、これまで構築してきた判別図が、少なくとも西は三重県まで適用可能であることが明らかとなった。 平成24年10月頃から蛍光X線分析装置の検出器に異常が認められたため、分析を中断して、検出器の修理を行った。平成24年12月下旬より分析を再開した。 本研究の主たる目的からはやや外れるが、新たな知見も得られた。①須恵器から灰釉陶器への移行期には、同一の窯址内で両者が共存する場合があるが、灰釉陶器の胎土に含まれる鉄分が須恵器に比べかなり少ないことが明らかとなった。施釉の効果を高めるために白色度の高い粘土を選択している可能性がある。②灰釉陶器単独の窯址内でも、器種により異なった粘土が用いられている可能性があり、さらに分析例を増やして検証する必要が生じた。 なお上に示した新たな問題点について、愛知学院大学の藤澤良祐教授の指導を受け、また愛知県内の窯跡出土資料の状況についての調査および資料収集のため、愛知方面への資料見学出張を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光X線分析装置の修理を行った影響で、秋から冬にかけて分析作業を中断せざるを得なくなり、関西地方出土資料の分析は60点に留まった。しかし再開後はペースを上げて分析を行っている。また平成24年度に分析した資料はすべて予測どおり、「フォッサマグナ西縁の外側」に区分され、判別図の地理的適用範囲は確実に西側に拡張している。また「研究実績の概要」に記したように、東西の判別以外にも新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、関西地方および静岡東部以東の基準資料の収集と分析を第1の目標とする。この地域では静岡西部以西に比べて古窯址じたいが少ないため、製作地の限定されている特徴的な土器(いわゆる「在地土器」)も分析対象に含める。また平成24年度に実施できなかった関西地方の基準資料についても収集と分析を追加実施する。全体で900点程度の基準資料の分析を行いたい。 こうした作業を通じて構築したフォッサマグナ東西の判別図を用い、長野県棚畑遺跡出土の縄文時代中期土器、山梨県釈迦堂遺跡出土の縄文時代中期土器を分析する。本研究申請時までの予備的分析によって、縄文時代中期末に八ヶ岳南麓方面から山梨県や静岡県東部に大量の土器が流入している可能性が浮上している。今年度は両遺跡の土器計400点程度を、蛍光X線分析装置によって分析し、この仮説を検証する予定である。これを第2の目標とする。 縄文中期土器の製作地を地域的に絞り込むために、資料の一部を部分的に破壊して鉱物分析を合わせて実施する。なお釈迦堂遺跡・棚畑遺跡ともに分析予定の土器は所管教育委員会の許可を得て既に借用済みである。
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次年度の研究費の使用計画 |
①設備備品費の支出の予定はない。 ②消耗品費としては、蛍光X線分析装置を冷却するための液体窒素(1回10リットルで4500円×30回)135千円が主要な品目であり、その他、分析関係消耗品、資料保管用消耗品、パソコン関連消耗品など計230千円の支出を予定している。 ③関西地方への資料収集を2回、東京都への資料収集を1回、千葉・茨城県への資料収集を2回予定しており、そのための国内旅費合計180千円の支出を予定している。 ④古窯址出土資料の分布状況や分析結果の解釈などについては藤澤良祐愛知学院大学教授に指導をお願いしている。また縄文土器の鉱物分析については元静岡県高校教諭の増島淳氏に作業を依頼する。この謝金として合計120千円の支出を予定している。 ⑤縄文土器の文様を効果的に描出するため、三次元レザースキャナーによる画像化を行う。この委託費として280千円の支出を予定している。
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