研究課題/領域番号 |
24520882
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
青木 敬 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, その他部局等, 研究員 (10463449)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 版築 / 古代中国 / 華北 / 華南 / 技術伝播 / 墳丘構築技術 |
研究概要 |
本研究では、東アジア的視野から古代土木技術を俯瞰し、その技術系統を整理することを目的のひとつとしている。そのため中国の事例分析が欠かせないことから、研究初年度にあたる平成24年度は、中国の仏塔を中心とした類例の探索をおこない、収集した事例を資料化する作業を開始した。その結果、中国では、華北と河南で版築に用いる土質が大きく異なり、華北と華南どちらの技術を採用したかによって、版築技術は大きく異なると推測した。こうした現状での見通しをふまえ、『花開く都城文化』に「造塔の土木技術と東アジア」を発表した。華南由来の版築技術は、一定の厚さで土質を変え、華北の版築は均一な土で版築する、または礫を挟み込む場合があり、この3つの技術系統が韓半島と日本列島へ波及したと考えた。また、それぞれの技術伝播にあたっては、各国の対外関係を反映した、きわめて政治性が強いと考えられるとした。 日本では、西日本を中心として寺院・官衙・古墳といった各種遺跡の踏査、および資料収集に努めた。そのうち版築技術について、個別事例の詳細な検討を開始し、礫が混じる版築は意図的に礫を混ぜた可能性が高いこと、理由として版築の締め固め具合を確認する方法として礫を混ぜたとの結論に達した。これについては『奈良文化財研究所紀要2013』に研究成果を報告する予定である。 古墳も墳丘構築法が判明した事例を収集し、成果の一部は論文形式で発表した。このうち、千葉県の前・中期古墳の事例検討から、墳丘構築技術を在地的なものと近畿地方の影響をうけたものに二分し、出現時期から前期末に一部地域で畿内政権との政治的関係に変化があったと推測した。さらに後期に各地の有力者層と畿内政権との間に大きな政治的変革が認められることが墳丘構築法の変化からも読み取れることを指摘した。以上の点は、『東国の考古学』(六一書房)に掲載した論文で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
古代中国において華北と華南で版築が大きく異なること、それぞれ異なる版築技術を祖形にしたことによって、東アジアにいくつかの版築技術の系統が存在したこと、版築技術について個別の事例検討をおこなうと、さまざまな技術的工夫がこらされていることなどが本年度の大きな研究成果である。版築をめぐる諸問題について、ミクロ・マクロ双方の観点から検討できたことは、今後の研究を進展させるための基本的な骨格を構築できたという点で、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の方向性は、初年度で固めることができたので、次年度以降は、日中韓でのさらなる類例収集と検討、相互比較が必要となってくる。それにより、現状で推定している見解に対し、より確度を高める作業が不可欠である。こうした課題をクリアしていくには、遺跡踏査や文献収集、あるいは調査担当者へのヒアリングといった事例の収集作業が根本となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
以上の研究を遂行するうえで、日中韓各地の遺跡踏査が欠かせないため、そのための旅費が発生する。事例収集には、報告書や研究書の購入や複写などの作業が欠かせない。さらに、収集した事例の情報化をおこなうためにも、記録作業に伴う物品を購入する必要が生じる。以上の点から、次年度も研究費が必要となる。遺跡踏査は、平成25年12月までに5回程度を予定し、物品等の購入は必要に応じて随時計画的におこなうものとする。
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