研究課題/領域番号 |
24520889
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
南埜 猛 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (20273815)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際情報交換 / インド / 台湾 / 溜池 / まちづくり / 中山間地域 / 地域資産 |
研究実績の概要 |
本研究は、溜池を地域資産として位置づけ、持続可能な地域づくりの軸として溜池の活用を検討するとともに、地理学における溜池研究の深化を目的とする。その目的に対して、3つのパートと6つの検討課題(パートI:溜池の実態把握(①溜池の分布と動向)、パートⅡ:溜池をめぐる今日的課題への対応(②溜池の維持管理とまちづくり、③溜池の維持管理とムラの存続、④溜池の維持管理の次世代担い手の創造)、パートⅢ:溜池研究の深化(⑤溜池研究の国際化、⑥溜池学の創造))を設定し検討をおこなった。 本研究の意義・重要性は,次の通りである。「パートI:溜池の実態把握」では、これまでの溜池研究の継承とその補完(研究空白地:北海道・沖縄)に加えて、既存の溜池研究では用いられていないGISを分析ツールとして導入し、溜池の分布と動向のより詳細な検討をおこなう。「パートⅡ:溜池をめぐる今日的課題への対応」では、これまでほとんど研究がなされてこなかった中山間地域を研究事例として積極的に取り上げることにしている。また溜池を地域資源として位置づけて検討する点は,既存研究にない本研究の特色といえる。「パートⅢ:溜池研究の深化」では、単なる外国の事例研究にとどまらず、比較研究を通じて日本の溜池の特徴をより鮮明に明らかにしていくことをねらいとしている。溜池にかかわる学問の体系化は歴史学や農業土木学などでの試みがいくつかある。本研究では,地理学をベースにした溜池学の構築めざしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画で示した6つの検討課題ごとに,現在までの達成度を以下に示す。①溜池の分布と動向では,すでに構築した「GIS溜池データベース」をもとに、溜池データを標準メッシュ(1kmメッシュ)データに変換する処理を行った。②溜池の維持管理とまちづくりと③溜池の維持管理とムラの存続では,「いなみ野ため池ミュージアム」,「TT(淡山疏水・東播用水)未来遺産運動」,「東条川疏水ネットワーク博物館構想」の企画に参画し、現状把握のための現地調査と地元関係者との意見収集・交換を実施した。また兵庫県の「ため池条例」策定にかかわる委員会に参画し,本研究の成果を踏まえて提案を行った。④溜池の維持管理の次世代担い手の創造では,昨年度に引き続き,副読本の作成に取り組んだ。中学・高校生を対象とする学習会において,本研究の成果をもとに講演を行った。さらに,将来の担い手である子どもの教育に携わっている教員への啓蒙の一環として、教員研修で溜池を含む地域素材の教材についての報告を行った。そのほか教育現場での実態を把握するために,加東市と小野市の全小学校を対象にアンケート調査を実施し,その結果を論文発表した。⑤溜池研究の国際化では,台湾・桃園台地における現地調査を5月と9月の2回にわたって実施した。同調査の成果の一部は、人文地理学会大会,現代台湾研究会学術討論会,東条川疏水授業実践研究会で口頭発表した。さらに溜池および台湾との比較事例として,中国・浙江省の水利開発について中国水利史研究会にて口頭発表を行った。⑥溜池学の創造では,地理学のほか、農学や文学など、幅広く網羅的に溜池学の構築のための文献・資料を収集した。また「ため池百選」に選定された溜池を順次調査し,和歌山県での調査を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
研究は,ほぼ計画通り進行している。全体として、②溜池の維持管理とまちづくり、③溜池の維持管理とムラの存続、④溜池の維持管理の次世代担い手の創造,⑤溜池研究の国際化、⑥溜池学の創造については、前倒しで進捗している。一方,①溜池の分布と動向が遅れ気味である。平成27年度においては、①では予定した北海道の調査が⑤の台湾調査との関係で,日程が取れなかったために,平成27年度に実施する。また溜池GISデータベースの解析作業が進んでいないが,今年度は集中的に作業を進める。なお④で平成25年度に計画していた副読本の印刷は,編集作業が進んでおらず,最終年度である平成27年度中に完成し公開する。本年度は,最終年度であり,研究成果の発表(口頭・論文)を積極的に行う。 これまでの3年間の研究中に兵庫県や地元の市教育委員会からの講演依頼が多くあり,本研究の社会的ニーズのあることが明らかとなった。また溜池研究は,日本国内だけでなく国外からも関心が寄せられている。そこで本研究をさらに発展させるために,第2期計画を平成28年度からさらに4年間にわたり実施する。そのための科研申請を行う。とくに第2期では,台湾での調査に力点を置き,日本の近代化研究や国際協力・交流の観点を含めて研究のグローバル化を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として,以下の点があげられる。本年度に予定した北海道の調査が台湾調査との関係で日程が取れなかったために実施できなかったこと,溜池GISデータベースの分析作業の時間確保ならびに作業補助者の手当が困難であったこと,副読本の編集作業が進んでおらず印刷にまで至らなかったこと,そしてに溜池研究に関する文献資料の収集作業が不十分であったことである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度計画の北海道の溜池についての現地調査を平成27年度に実施する。そのための国内旅費と車両の借り上げ費等を計上する。溜池GISデータベースの分析を集中的に実施し,そのための人件費・謝金を計上する。溜池にかかわる学校教育用副読本を発行する。そのための印刷費を計上する。溜池研究に関する文献資料を積極的に収集する。そのための物品費を計上する。
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