研究課題/領域番号 |
24520891
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
作野 広和 島根大学, 教育学部, 教授 (50284146)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 無住化集落 / 無住化危惧集落 / むらおさめ / 島根県 / 中山間地域 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、集落の無住化・消滅のプロセスについて明らかにした。 まず,平成26年度までに十分に明らかにできなかった無住化集落における農地や森林の管理について,転出した元住民等による管理実態を明らかにした。具体的には,江津市川平町大野集落,後山集落及び瀬尻集落の元住民に対してヒアリング調査を行った。 その結果,集落が無住化した後も,元住民や元耕作者によって定期的に出入りし,一定の管理が続いていることが明らかになった。ただし,管理の主体は当該集落に定住した元住民に限られ,後継世帯が無住化集落を訪問することがあっても,管理を継続する意思は希薄であると判明した。したがって,集落が無住化した場合,直ちに集落が消滅するのではなく,元住民による管理が継続するものの,当該住民による集落への移動が困難となった場合,管理がほぼ行われなくなることが予想される。 最後に,一連の研究成果を踏まえて,無住化集落や無住化危惧集落の発生とそのプロセスの一般化を行った。ただし,いずれも定性的分析にとどまっており,数値化された結果は得られなかった。 なお,無住化集落の社会的役割については必ずしも明解にならなかった。その点については,新たな研究課題として研究に着手しつつあり,今後の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では居住者実態がなくなった無住化集落の分布を明らかにすることにより,どのような地理的条件の集落がどの時期に無住化していったのかを明らかにすることを最終的な目的としている。また,無住化の恐れがある集落の実態についても把握することで,集落が無住化していくプロセスを動態的に明らかにすることも意図している。さらに,無住化後も通い耕作などを通して集落は活用されている実態を鑑み,集落が本質的に消滅することに関する考察も行うことを目指している。 これら,一連の目的のうち,本年度は当初計画の最終年度として,無住化集落における農地や山林の管理実態と,今後の見通しについて明らかにするとともに,集落の無住化に向けたプロセスを明らかにすることが研究課題であった。 前者については,「研究実績の概要」に示した通り,順調に行うことができた。また,後者についても概ね達成でき,その成果は人文地理学会特別研究発表において報告した。ただし,平成26年度に実施できなかった「限界集落化が水資源涵養機能や洪水防止機能等に与える影響評価と,その対策」については平成27年度も実施できなかった。 なお,平成28年5月に予定されている経済地理学会シンポジウムにおいても,本研究の成果を踏まえて発表するため,研究期間の延長を申請したところである。 以上の点を踏まえると,当初計画した本年度の研究計画は概ね達成することができ,一定の成果を収めたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
無住化危惧集落に居住する住民に対して集落が消滅することに対する意識や,自分の代で家が断絶することに対する考えは漠然としたものに過ぎない。平成27年度に行ったヒアリング調査でも,あいまいな回答が多く,集落が消滅した後の土地利用や資源管理に対して,明確なビジョンは持ち得ていない。また,ヒアリングの結果から,多くの住民は集落維持には消極的であり,「自分の代で終わり」であると考えている。しかし,仮に集落に居住する住民がいなくなったとしても,今後も集落の範域は存在し続けるため,誰かが何らかの管理を必要とする。あるいは,今後,管理を必要としないならば,集落内への立入を禁止するなど,何らかの対策が必要である。現実には,土地や家屋といった私有財産の保有や,居住の自由といった法概念の壁が大きく,無住化集落は「なすがまま」となる可能性が高い。したがって,「むらおさめ」という概念は定着していても,実際には「むらおさめ」活動を実施する機運は高まっていない。 今後は,「むらおさめ」活動を住民が実施するためにはどのような要素が挙げられ,どのようなプロセスが必要なのかについて,科学的に検討する必要があるといえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究については、当初の計画通り、ほぼ実施することができた。 2015年12月に、本研究の成果を2016年5月28日に開催される経済地理学会大会シンポジウムで発表するよう経済地理学会から要請が届いた。研究代表者としても、研究成果を披露する貴重な機会であると考え、出席して発表することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
学会発表旅費と、それに関連するものに使用する予定である。
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