研究課題/領域番号 |
24520894
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
杉浦 芳夫 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (00117714)
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研究分担者 |
原山 道子 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (00117722)
石崎 研二 奈良女子大学, 文学部, 准教授 (10281239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 中心地理論 / Christaller / 渡辺良雄 / 学説史 / 東北地方 |
研究概要 |
今年度は渡辺良雄の1950年代から1970年代前半の中心地関連論文を精読した。猪苗代盆地といった、会津若松と郡山の商圏の境界地帯での研究から中心地研究を開始し、中心地分布の圏構造を持つ新庄盆地での研究を経て、福島県全域を対象とした研究において、グラフを用いた中心地機能の分類に基づくオリジナルな中心地階層区分法を提案し、福島県の中心地システムが、地形条件の影響を受けた、階層構造が異なる複数の中心地システムから成立していることを明らかにした。盆地を対象とする中心地研究の集大成の意味合いを込めて取り上げたのが、湯沢、横手、大曲の最上位中心地からなる横手盆地での研究である。中心地の後背地面積・人口の推計を盆地基底部と盆地背後の山地部とに分けて行なうとともに、中心地間の距離も計測し、中心地が許容範囲のバラつきを持った一定の距離間隔で立地していることを解明した。そして、中心地規模を戦前のものと比較することにより、近代化が進行するにつれて階層分化が明瞭になることを明らかにした。自然条件に着目した盆地の中心地成立の構造特性をまとめ上げた点において、本研究は渡辺の盆地中心地研究の一つの到達点を示している。その後は、岩手県を対象に、購買行動の面から、同県中央部での中心地間の競合問題の研究と、同県全域を対象にした理論的商圏と現実の商圏の比較研究を経た後、福島県を対象にした研究で得られた階層区分に従って、東北地方全域での地形条件に基づいた中心地システムのタイプ分けの研究を行ない、渡辺の中心地研究は一応の終了をみる。渡辺の中心地研究のオリジナリティを簡潔にまとめるならば、次の2点に要約される。①(三角)グラフの有効利用に代表される、シンプルではあるが工夫に富んだ研究方法、②東北地方の中心地システム成立要因が、中心地理論が拠り所とする経済原理以上に、封建制度下での町と農村の社会的関係にあるとの指摘。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
渡辺の中心地研究の主要論文は英文で書かれているが、英文の解釈が十分になしえない点がままあることが、現時点においても内容の正確な理解を難しくしている。生前の渡辺の性格から推し量るに、英文執筆にあたって最後の最後まで文章の推敲を行ない、かつ原稿の校正時においてすら、さらに推敲を加えたものと考えられるが、そのことが結果的に、記述に整合性がとれていない個所が散見される事態を生じさせている。さらに、日本語で書かれた論文でも同様であるが、図表の説明が必ずしも十分になされていないことも、こうした事態に拍車をかけている。また、同一の事象と思われる事柄に対して、論文によって異なる言い回しがなされているため、その同定も必要となってくる。渡辺の中心地研究の全体像がわが国の地理学者に十分理解されてこなかった理由の一端は、単に英文論文という以上に、上記のことが関係しているのではないかと推察されるのである。一方、上記の事態に対して、積極的な意味を見出すならば、それは、渡辺が思考を中断することなく、かつより精確な内容表現を求め続けて真摯に論文執筆を行なっていたことを証左するものといえる。生前の渡辺を知る者にとっては、むしろそちらの方が十分にありえたと思われるのである。渡辺は論文抜刷を相手に手渡す時に、「誤植はあえて直してありません。誤植だけでなく、内容に問題はないかと言われると困るので…」と言うのが常であった。これは渡辺一流の謙遜した、あるいは諧謔的な物言いであったかもしれないが、書き終えた論文に対しての自負の表れであったようにも思われる。おそらく、海外の中心地研究者にも利用された、オリジナルな中心地階層区分方法だけで自らの研究が評価されることは、渡辺にとって不本意であったに違いない。本研究はまさにその欠点を是正することを目論むものであり、その意味でもなお一層の渡辺論文の精読が求められているのである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き渡辺論文の精読を続けるが、主に以下の3点について着手する予定である。①渡辺の出身大学である東北大学に赴き、東北地方の中心地についてまとめたと考えられる博士論文を閲覧する。それに目を通すことで、渡辺の中心地研究のねらいの全体像が見えてくるはずである。②首都大学東京の地理学教室に残されている、渡辺が所蔵していたChristaller(1933)の原本の余白部分に記入されている書き込みについて検討する。これにより、自らの中心地研究に、Christallerの中心地理論のいかなる部分を参考にしようとしていたかをうかがい知ることができるはずである。③首都大学東京に保存されている渡辺が残した中心地研究関連の資料を精査し、分析作業や思考の過程について理解を深める。これ以外にも、渡辺が中心システムは日本全域をカバーするものであると考え始めた時点での研究論文についても読解を進めたい。中心地システムが国土全体をカバーするものであるか、そうではなくてあくまでも局所的な地域単元でのみ存立しうるものであるかという点については、研究者によって意見が異なっている。渡辺がこの点についてどのように考えていたのか、日本全域を視野に入れた研究論文を通して検討してみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究分担者が当該年度の分担分の作業を十分にこなしきれなかったため、年度内に執行するはずであった物品費・ならびにデータベース使用料が未執行となった。次年度には当初予定していた作業を集中的に進めるので、執行予定額は変更せず、そのまま追加した形で執行する。
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