研究課題/領域番号 |
24520895
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 都市地理学 / 公共空間 / スペイン / 地中海ヨーロッパ |
研究概要 |
平成24年度は,平成21年度に開始した前研究課題「歴史地区の環境価値の発見と地方都市の再生戦略―地中海の創造都市への注目―」からの橋渡しの年にあたるため,以下のように,前研究課題の成果総括を行いつつ,同時に新たな調査・研究に着手した.そのために,8月末から約4週間にわたって,フィールドワーク中心の現地調査を実施した. まず,上記現地調査のなかで,遺産の保存・活用を柱とする前研究課題に関する補足調査を行った.具体的には,遺産を取り巻く都市の環境価値の発掘と共有に果たす博物館の役割に注目し,中心対象都市であるタラゴナの主要3ミュージアムに対して,館長へのインタビューと資料蒐集からなる調査を行った.その暫定的な成果については,スペイン史学会会報に寄稿した(平成25年春刊行予定). 次に,本研究課題の中心テーマをなす歴史地区における公共空間の協育については,各歴史地区を取り巻く地理的コンテキストをデスクワークで把握したうえで,上記現地調査において本格的な調査・分析を行った.平成24年度は,新たに対象都市に加えたカンブリルスを重点的な調査対象とした.フィールドワークでは,歴史地区の空間利用とそれをめぐる主体間関係に迫ることを目標とし,とくに,地中海都市における屋外活動の重要性を考慮して,各都市を代表するイベント・祭りにおける公共利用に力点をおいた.主要な調査内容は,①カミ聖母祭(9月上旬)における空間利用の実地調査と主要活動主体へのインタビュー調査;②歴史地区活性化に取り組む「地区プログラム」に関する実施チームへのインタビュー調査と資料蒐集;③歴史地区内の3エリアに展開する飲食・小売店を中心とする空間調査である. カンブリルスに関する現地調査の成果については,学術論文として雑誌『JunCture』に公表し,併せて別論文で,都市政策全体に果たす地区プログラムの意義について論じた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に掲げた研究の目的で中核をなすのは,居住者・事業者を含む多様な主体がかかわり,使い込むことで歴史地区を都市の共有財産に育て上げる筋道を,各都市のおかれた地理的コンテキストと関連づけて明らかにすることである.この目的の達成に向けて,平成24年度は,すでに研究蓄積のあるタラゴナおよびレウスの事例とは別にカンブリルスを新たな調査対象に加え,4週間にわたる現地調査を実施した. 観光・イベントに関する空間利用の調査では,歴史地区と港地区というライバル関係にある2つの中心地区の存在を前に,民間団体と行政の緊密な協働が町全体の支持を受けたカミ聖母祭の発展を可能としたことが明らかになった.また,観光開発に埋没した港地区に対して,居住と交流がバランスを保つ歴史地区のよさをプロモートする地区プログラムが,若年層の回帰を含む地区活性化に一定の効果を上げたことが判明した.買物・飲食に関する空間利用については,歴史地区の中の3エリアを選定し,各エリアに展開する事業者のリストを作成したうえで,目視と聞き取りによって,曜日・時間帯によって変化する空間利用の実態を明らかにした.これらの調査を行う過程では,カンブリルスのように観光化にともなう急激な市街地拡大を経験した地中海岸都市にあっても,氾濫を起こす荒れ川,歴史的な街道,ランドマークをなす塔といった要素に象られた都市形態の持続性が,市民の知覚表象を通じて,過去から未来へ向けた都市の変化を仲立ちしているという,当初予期していなかった大きな発見があった. 以上の研究成果は,世界遺産を擁するタラゴナの上手地区や商業都市のアイデンティティを歴史地区に見出すレウスといった他の事例都市との比較対照を通じて,地理的コンテキスをいかした歴史地区の再生戦略という本研究課題の問題意識に応える知見へと繋がることが予想される.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,カンブリルスを新たな対象都市として,夏のカミ聖母祭の時期に焦点を当てた調査を行った.今後は,当初の研究計画に沿って,タラゴナ,レウス,カンブリルスにつづく第4の対象都市であるファルセットを調査地に加えることが,当面の課題となる.そのうえで,各季節を代表する祭り・イベントの開催時期に合わせて,4都市での現地調査を行い,空間利用の実態と空間利用を維持・促進する仕組みの両面から研究を積み重ねる. 空間利用の面では,まず屋外活動に焦点を当て,季節・時間帯に応じて変化する空間利用(屋外の定期市,飲食店のテラス,仮設レストラン,街頭演劇,フィールドミュージアム等)を把握する.そのうえで,小売店舗の取扱品・価格帯および飲食店の業態・表示言語を主要な基準として,都市の内(市民)および外(ツーリスト)と歴史地区のかかわりの観点から利用者層を分析する.買物・飲食はもとより,イベント・観光についても,遠方の観光客を呼び込むとともに,市民が自らの町を発見する過程をなすことに注目する. 空間利用を維持・促進する仕組みについては,カタルーニャ自治州の呼びかけに応えて,各都市が実施した「地区プログラム」を導線にして調査する.地区プログラムの特徴は,縦割り行政のもとで連携不十分な都市政策の諸領域を,地区という実践の場で繋ぎ,相乗効果の創出を試みる点にある.このことをふまえ,市の特別斑や市が設立した住宅・都市事業会社など,プログラム実施の司令塔となった組織への聞取りと併せて,市と協働する住民組織,商業者組合,飲食業者組合,アーティスト団体などへのインタビュー調査を行い,事業効果を検証する. 以上の調査・研究を通じて,多様な主体がかかわり,使い込むことで歴史地区を都市の共有財産に育て上げる筋道を,各都市の地理的コンテキストに定置して明らかにすることが,本研究課題の最終的な目標である.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究は,ワイン見本市の開催に合わせたファルセットの現地調査(5月)とインマクラダ祭りに焦点を当てるカンブリルスの2回目の現地調査(12月)が中心となる.このため,研究費の使用では,これら2回の調査旅費の確保を最優先とする.いずれも授業期間に重なるため,比較的短期の集中調査とする.ただし,祭り・イベント期間中は運営主体となる関係者が多忙を極めるため,実質的なインタビュー調査は期間終了後に行わざるをえない.このため,多少の余裕をみて各10日間程度の日程を組む. 上記の現地調査に1回につき約40万円,計80万円の旅費を計上したうえで,前年度からの繰越し分を含めた残り約16万円については,研究成果発表のための国内旅費に約4万円,都市地理・都市計画関係図書の購入を中心とする物品費に約8万円,資料整理・デジタル加工を主目的とする人件費・謝金に約4万円を充てる.
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