研究課題/領域番号 |
24520895
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
竹中 克行 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (90305508)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 都市地理学 / 公共空間 / スペイン / 地中海ヨーロッパ |
研究実績の概要 |
平成26年は,本研究課題の対象都市の一つ,カンブリルスで前年度の成果を継続・補完するための現地調査を行った.また,カンブリルスでの調査・研究成果の一部をムハンマド5世大学(モロッコ)で発表した. カンブリルスの現地調査は,9月23~29日の1週間の日程で実施した.主な目的は,公共空間の協育への商業・飲食業者のかかわりに焦点を当てた前年度12月の現地調査のうち,積み残しとなっていた部分を完遂することである.したがって,事前に用意した質問票による事業者への直接インタビュー調査という方法は,前年度のものをそのまま踏襲した.主な調査項目は,業種,顧客層,営業時間,市民組織・同業者組織への参加,不動産の所有関係などである.今回の調査では,強い季節性を特徴とする港地区の商業・サービス業のなかで,夏季のみ営業する13の店舗へのインタビューを新たに行った.これをもって,前年度の調査と合わせて,歴史地区・港地区の調査対象エリアにある93事業所すべてへの調査を終えることができた.全体の1割強にあたる12事業所からはインタビューへの協力が得られなかったものの,アンケート調査などのより簡便な方法では達成しがたい高い回答率と質の高い調査データを手にできたことは大きな収穫である. カンブリルスでの調査・研究成果については,すでにその一部を論文として公表しているが,今回,9月5日にモロッコのムハンマド5世大学学術研究院で開催された国際ワークショップ「地中海世界における危機とネットワーク」において,新たな成果報告を行う機会を得た.報告タイトルは,「危機下の企業家ネットワーク―カタルーニャ港湾都市,カンブリルスの事例研究」(発表は英語)である.チェーンビジネスが拡大する不況下の地中海都市においても,商業・個人サービス業が,コモンズとしての都市空間の継承ために依然重要な役割を担っていることを強調した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では,平成26年度の調査・研究として,中心対象であるタラゴナで開催される野外歴史演劇の大イベント「タラコ・ビバ」の調査を5月下旬に行う予定であった.また,冬季には,気候条件が厳しい中山間地域に位置するファルセットの第2回調査を行い,聖ブライ祭などのイベント・祭りに焦点を当てて歴史地区の空間利用を分析することを想定していた.しかし,実行することができたのは,事業者インタビューの完遂に目標を定めたカンブリルスの現地調査とその成果に関する国際ワークショップでの研究報告のみである. もっとも,平成25年度の実施状況報告書に記したように,同年度末の段階で,調査買物・飲食を中心とする日常的な空間利用については,地元指向型の歴史地区と観光化が進んだ港地区を擁するカンブリルスで研究を深める方向で,研究計画に関する一定の軌道修正を行った.当初の研究計画に掲げたメニューの一部で実施が遅れているのは事実であるが,本研究課題の特徴の一つであったカンブリルスの現地調査を今年度をもって終え,研究成果の公表も進めている.この意味で,研究課題の全体的な枠組みに大きな変更が生じているとは考えていない. カンブリルスに関する研究成果については,先述のムハンマド5世大学での報告に加えて,「現代地中海世界における企業家ネットワーク」と題する英語論文を作成し,同大学学術研究院の研究雑誌に投稿した(研究院側の事情により,現時点では未刊行).さらに,ファルセットを対象とする研究成果の一部として,英語論文「景観への参加とローカル知―プリウラット,地中海山間の農業景観」を国際地理学連合(IGU)持続的農村システム・コミッションの大会プロシーディングスに公表したことも,本研究課題に関する重要な成果の一つである.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の当面の課題は,歴史地区の空間利用に関する調査・研究のうち,タラゴナで毎年開催される大イベント「タラコ・ビバ」およびファルセットの冬季の祭り(聖ブライ祭を予定していたが,平成25年度に行った第1回調査で得た情報をもとに再検討)にターゲットを絞った現地調査を行い,研究対象4都市に関する現地調査を一通り終えることである.これら2つの調査は,対象とするイベント・祭りの開催時期との関係から,別箇に実施する必要がある. 他方,研究代表者は,本研究課題と並行して,自らが生活する名古屋における空間コード提案に関する研究を進めている.空間コードの提案は,本研究課題とは独立した研究ではあるが,本研究課題を通じて得たアイデアを日本国内で実践的に応用する貴重な機会である.現在,すでに進行中の都市再生事業のアジェンダとの関係から,空間コード研究の早急な成果公表を関係各方面から求められており,実践指向の専門書として刊行するための作業を平成27年度前半には終える必要がある. 以上の状況をふまえて,平成27年度については,本研究課題と密接に関係する空間コード研究の集中的作業に年度前半を充て,これが一段落する年度後半に本研究課題の残された現地調査を再開するというのが,現実的な進め方と考える.したがって,5月に開催されるタラゴナの「タラコ・ビバ」は一旦後回しとし,ファルセットの冬季の祭りをテーマとする現地調査を年度内に実施することを方針とする. 「タラコ・ビバ」を含むすべての現地調査が完了すると,本研究課題の大きな目標をなす,歴史地区を取り巻く地理的コンテキストの総合分析が可能となる.現地調査の一部が順延となっている現況下において総合分析に関する詳細な計画を記すことは控えるが,現地調査実施の折には,対象都市レウスの文書館での資料調査などを通じて,不足している資料・データの補完を進めていきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」の欄に記したように,当初の研究計画で平成26年度に組み込んでいた調査・研究のうち,タラゴナおよびファルセットを対象とする現地調査を順延したため,支出額が予定を下回った.
|
次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」の欄に記したように,実施を順延した現地調査については,平成27年度後半以降に調査を再開し,併せて不足資料の入手を進める予定でスケジュールの調整を行っている.また,資料整理・加工のために大学院生を研究補助要員として雇用する可能性がある.
|