本研究では,都市形成の核をなした歴史地区にこそ地方都市再生の鍵があるという発想から,地中海ヨーロッパの中小規模都市に注目し,都市の内と外への求心力をもつ公共空間として歴史地区を育てる試みを分析した。そのための調査フィールドとしてカタルーニャ自治州(スペイン)を設定し,規模,立地,生業などの地理的文脈が異なる4都市を研究対象に選んだ。具体的には,タラゴナ(県都,古代ローマ時代の属州の都),レウス(タラゴナと並ぶ中核都市,近代に繁栄した商業都市),カンブリルス(地中海岸の観光都市,中世以来の街道町),ファルセット(中山間部の郡邑,ワイン産地の中心)の4つである。 公共空間の協育に関する本研究の成果は,歴史都市の空間政策,歴史地区の空間利用,それを維持・促進する仕組みの大きく3つの柱からなる。1つ目の空間政策に関する研究は,考古遺跡が強いアピールとして機能するタラゴナと,商業都市としての発展経路にアイデンティティを求めるレウスの2都市に絞って進めた。2つ目の空間利用では,買物・飲食とイベント・観光の2つの活動領域の焦点を当て,季節・時間軸と交差させながら4都市すべてで調査を行った。とくに,地中海岸のカンブリルスでは,内陸寄りの歴史地区と観光化が進んだ港地区の比較から,対照的な空間利用とその動態が浮き彫りになった。 3つ目にあげた空間利用を維持・促進する仕組みは,本研究を通じて最も豊富な成果が得られたテーマである。4都市各々の地理的文脈をいかすために,タラゴナでは文化イベントを通じた都市アイデンティティの確認,レウスでは政権交代を通じた都市政策の刷新,カンブリルスでは界隈づくりに果たす事業者の役割,ファルセットでは町中に埋め込まれた共同利用空間に焦点を当てた。とくに,タラゴナのイベント「タラコ・ビバ」とレウスの都市政策に関する調査は,最終年度の成果として特筆に値すると考える。
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