研究課題/領域番号 |
24520898
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
石井 久生 共立女子大学, 国際学部, 教授 (70272127)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人文地理学 / 政治地理学 / バスク地方 / 地名 |
研究概要 |
初年度は,バスク地方全域の地名変更に関わる文献資料や各種情報の収集と,スペイン・バスク州における現地調査による地名変更事例情報の収集を進めた。収集した情報を解析し,情報の整理を進めつつ,地名変更傾向を検証した。ただし,検証を進めたのは変更傾向を追跡しやすい自治体改名に限った。その結果,バスク州では改名時期と改名パターンに地理的特徴があることが明らかになった。具体的には,1984年までのごく初期の段階に半数以上の自治体が改名を経験したが,それら自治体の多くはバスク語話者の集中する州北部から東部に集中し,同時にカスティーリャ語名称からバスク語名称への改名が多数を占めた。その後改名は停滞するが,1990年代半ば以降,カスティーリャ語とバスク語の2つの名称を併記し選択するバイリンガル名称が登場すると,州西部や南部のバスク語話者が少ない領域でも改名が進行するようになった。 この現象を総括すると,地名という言語景観からみたバスクの再領域化は,バスク語話者密度に比例して進行したといえる。再領域化は,バスク文化への帰属意識が高い住民の集中する領域では順調に進行した。その段階の再領域化は,バスク語名称への改名という文化的正統性への回帰の文脈の上で進行したといえる。しかしバスク語話者密度の低い領域へ進出するには,両義的なバイリンガル名称という装置が必要であった。このことは,バスク自治州という行政領域が文化領域と同義でないことを意味する。数百年の単位で文化変容を経験した住民を,バスク文化の理論をもってバスクの領域に組み込むには限界があり,それを解決するためには言語的にハイブリットな仕掛けが行政側にとって必要であったのである。 行政と文化の領域的不一致は随所で観察されるが,それをハイブリッドな手法で解決した今回の事例は興味深く,行政とエスニシティの祖語から生じる諸問題の解決に応用できよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地名改名に関する情報の収集という点では,当初計画を上回る収穫が得られた。バスク語アカデミーでは自治体や地形名の地名一覧Nomenclatorを入手し,バスク州政府では地名データベースを入手した。これら情報源によりカバー可能な地名情報は,本研究計画で要求した情報量を上回る。ただし情報量が膨大なために,その解析が間に合わず,実際に解析が終了したのは自治体・集落の改名事例のみであり,地形名は未処理のままである。未処理の情報は今後順次解析を進める予定である。 現地調査は当初の予定通り進行した。最大の収穫はバスク語アカデミーにおける現地調査であり,アカデミーの地名委員会構成員であるGorotxategi氏,Iñigo氏へのインタビュー調査では,文献に記載されていない貴重な情報を収集できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,スペイン・ナバラ州に重点をおいて20日間程度の現地調査を実施する計画である。ナバラ州は1州1県のため,今年度のバスク州の場合と比較して,調査対象は簡略化されるが,改名制度がバスク州と大きく異なるため詳細を下記のように設定する。 現地調査による実証的研究では,ナバラ州公共事業省地図局においてGISベースマップを入手する。同時にバスク語地名の地図への反映の実体とその具体的手続きについてインタビュー調査を実施する。内務省において基礎自治体と集落の名称変更の実態とそれに関わる法規や手続きについてインタビュー調査を実施する。また,ナバラ州において地名変更推進活動を担当するバスク語院Euskarabideaにおいて,副局長Julen Calvo氏(研究協力要請済み)に対し地名バスク語化推進の手続きや実態についてインタビュー調査を実施する。さらに,バスク語アカデミーナバラ支局において,アカデミーの地名委員であるAndres Iñigos氏(研究協力要請済み)に対しナバラにおけるバスク語地名の歴史地理的分布についてインタビュー調査を実施する。このようなインタビュー調査は,地名変更に関与する州議員,地方自治体議員,法曹関係者らに対しても実施する。 こうして収集した情報は,平成24年度と同じく地理情報データベース化する。さらに文献を解析し,言語景観研究と領域研究の体系化の作業を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究初年度の今年度に主要な備品は購入したので,次年度の備品購入は主要なソフトウェアのアップデート,図書資料購入程度に収める予定である,備品予算は400千円程度で十分である。その代り,予算の多くを旅費に充当し,充実した現地調査を実施する計画である。旅費には626千円を充当する計画である。次年度の調査対象地域はナバラ州であるが,インタビュー予定者がすでに多数確定しており,訪問予定地には交通の不便な山間地も含まれるため,周到な計画立案が必要である。これら以外に,日本地理学会周期学術大会(於福島大学)での学会発表で必要な国内旅費(77千円),人件費(外国語論文校閲費,100千円)複写費や現地調査での自動車盗借料など183千円を計上する計画である。
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