研究課題/領域番号 |
24520898
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
石井 久生 共立女子大学, 国際学部, 教授 (70272127)
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キーワード | 文化地理学 / 政治地理学 |
研究概要 |
平成25年度は,スペイン・ナバラ州においてフィールドワークを重点的に実施した。ナバラ州は3つの社会言語圏(バスク語圏,混合圏,非バスク語圏)に分けられており,各言語圏でバスク語の公用語としての地位が異なるため,言語圏により地名変更の方針が異なる。各言語圏における自治体名称変更の観察を継続しているが,中でも名称変更が行政審判まで発展したケースは諸アクタの政治的関与が強く観察されるため特に注目している。ただし今回の調査で,バスク語正常化の文脈を超えた事例にでくわした。それが混合圏のEstella-Lizarraのケースである。行政審判の判決文に,Lizarraの表記の歴史についての言及があるものの,「名称の決定には住民の自治を尊重する」という文言が加わっていることにある。 文献調査も進めている。Lizarraはバスク語のirizar(古い都市)あるいはelizar(古い教会)を起源とするとされる。バスク語推進派はこの解釈を根拠にLizarraの正当性を保証しようとしているのであるが,これと異なる解釈もある。それによれば,Estellaは「星」を意味するラテン語stellaから派生しており,Lizarraの表記もバスク語のizar, izarra(星)を起源(L'izarra)としているというものである。そもそもlzarはアラビア語でうしかい座の星イプシロンを意味しており,そうなるとLizarraはバスク語起源なのかアラビア語の借用語なのか判然としない。 ナバラ州の言語景観の調査からは,バスク語正常化のための政治的実践の範疇を超え,住民自治というより広範な政治的運動をも取り込みつつある実態が明らかになってきた。また名称変更運動の展開を,バスク語正常化運動のみならず,かつてイベリア半島に存在した諸言語を含めて解釈するというポストモダンな文脈に位置付ける必要性も生じてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スペインバスク地方のバスク州とナバラ州の言語景観調査は順調に進行し,文献調査も順調である。これらの地域では,追跡調査の必要な地名を,バスク集のElciego,ナバラ州のBera,Estella-Lizarra,Olite/Erriberriに絞っているので,今後の現地調査も容易に進むことが期待される。 ただしフランスバスク地方の調査の進展が思わしくない。その原因は,フランスバスク地方がスペインバスクのように自治州として機能していないため,地名変更のような情報をフランスバスクの地理的レベルで管轄する組織が存在したいためである。フランスバスクの場合,自自組織が不在のためバスク語正常化運動も進行しておらず,スペインバスクのような大規模な言語景観修景の情報は入手不可能であろう。しかしフランスバスクを調査すると,各所にバスク語表記が観察されることから,景観観察調査や聞き取り調査を丹念に実施すれば,多くの情報をが得られるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は,スペインバスク地方の言語景観の追跡調査と,フランスバスク地方の言語景観調査が主体となる。特に重要となるのがフランスバスク地方の調査である。 前述のように,フランスバスク地方には自治制度が確立していないため,地域内の情報を一括して入手できる組織が存在しない。そのため地道な景観観察調査と聞き取り調査を主体に,言語景観情報を入手する必要がある。それを一人で実施するには限界があるので,現地研究者と合同で調査して情報を入手する計画である。これについては,平成24年度の調査時にデウスト大学の研究者と,平成25年度の調査時にバスク大学の研究者とそれぞれ交渉し,平成26年度夏季のフランスバスク調査に同行してもらう約束を得ている。彼らとの合同調査によりフランスバスク地方の言語景観情報の蓄積が進行することが期待できる。 こうして得た情報を平成24年度以降収集してきた情報とともに整理し,学会等で口頭発表を実施したうえで,論説としてまとめ,公表する予定である。
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