平成27年度にはシドニーで調査(10月30日~11月6日)を行った。現地では、シドニーの同性愛者の政治イベントの観光資源化について、そうした政治イベントの一つ「シドニー・ゲイ・アンド・レズビアン・マルディグラ」の実施とこれと関わる地方自治体の観光推進策に関するデータを、ニューサウスウェールズ州およびシドニー市の担当者に聞き取り調査を通じて収集した。聞き取り調査では、地方自治体の実践や役割、その背後にある考え方についての情報を得ることができた。エスニシティの観光資源化については、移民の集住地であるライカート(シドニーのイタリア系住民のかつての代表的集住地)、カブラマッタ(国内最大のベトナム系住民の集住地)の視察を通じて、新たなデータの収集に努めた。カブラマッタについてはこれをテーマとしたドキュメンタリー番組もあり、DVDとして公刊されているので、その内容についても検討した。労働者の政治闘争の場となったロックスについては、歴史的地区ということもあり、歴史的な殺人事件や自殺をテーマにしたゴーストツアーも実施されている。そのツアーで同地区がどのように表象されているかを調査した。その他に、先住民の政治活動の拠点として知られるブロック地区の再開発について、聞き取り調査を行った。ブロックは、本研究申請時には観光地ではなかったため研究対象ではなかったが、現在は、観光パンフレットにおいても貧困地区からスタイリッシュな地区への変遷が強調されている。この調査では、先住民の政治闘争の場として知られ、その後貧困・犯罪地区であったゆえの開発の難しさがあることについても知ることができた(今後そうした同地区歴史が再開発の中でどのように表象されていくのかという点についてはさらなる調査が必要となる)。 これらの調査結果の整理を行い、現在は論文としての投稿の準備をしている。
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