研究課題/領域番号 |
24520904
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
諏訪 淳一郎 弘前大学, 国際教育センター, 准教授 (40336904)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 「国際研究者交流」ルーマニア |
研究概要 |
本年度は、ルーマニア人大学院生1名を現地語通訳の情報収集の担当にあて、本研究の遂行にきわめて重要な以下の2点について、ムンテニア地方でフィールド調査を行った。すなわち、1)ラウタリ(ラウタレスカ音楽師)の活動に関する聞き書き、および2)現代ルーマニアの文化全般におけるラウタレスカ音楽の位置づけ、の2点である。1)に関してはジュルジュ市内とその郊外の村落にて4名のラウタリからライフヒストリーを採取し、2)に関しては村落での結婚式におけるラウタレスカ音楽上演と、ラウタリが受け持つ前キリスト教的婚姻儀礼を映像として撮影した。 1)では、口頭伝承空間によって技能を継承してきたラウタリの音楽活動が、むしろポスト社会主義以降のルーマニア音楽社会で楽譜リテラシーとの緊張関係にあることが明らかとなった。あるラウタリは、学歴の低さを理由として民俗音楽の楽団員を解雇になり、そのことがかえって外国での音楽活動という「芸の肥やし」にも繋がっていた。聞き書きはこうしたミクロなやり取りに生じる力関係を描出することによって、本研究の主な目的である音楽化する身体を構築するための文化資源を指摘するという意義を持っている。これは、特に我が国における従来のルーマニアやロマを対象とする民族誌的研究からは明らかにされなかったきわめて重要な点でもある。 2)の婚姻儀礼の映像からは、一般のルーマニア人の婚姻においてもラウタリが伝承し専業化してきたことの理由が、実は彼らの音楽が儀礼の遂行に不可欠な役割を果たしているからであると指摘できた。すなわち、「民俗文化」としてのラウタレスカ音楽の資源は、一つには伝統的な婚礼では音楽と儀礼が不可分に接合しているのが原因と分かった。これは従来知られていなかったきわめて重要な点であり、ラウタレスカ音楽の文化資源について具体的な指摘ができたという大きな意義を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①4週間のフィールドワークの中で、当初の見込みよりも多い10年以上の活動歴を持つ4名ものラウタリに集中的に接触できた。②偶然、村落の結婚式に招待され、間近な位置から上演や儀礼を貴重な映像に撮影することができた。③偶然、ジュルジュ市内で開催された民俗音楽コンクールを拝観し、ルーマニア人音楽家とラウタリとのジャンルの接合について直に見ることができた。③ラウタリの中には「自称ロマ」がおり、ルーマニア人かどうか見分けのつかない場合があることを知った。④インフォマントとのラポール形成が当初の見込みよりもはるかに順調である。例えば、ラウタリ音楽のエッセンスを言説でなく間身体的に伝授するため、次回の調査からはクラリネットを持ってきて共演しよう、と本研究代表者に対して一人のインフォマントから申し出があった。
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今後の研究の推進方策 |
①本研究代表者は、平成25年7月および同年11月にて研究成果の発表と海外研究者との意見交換を実施する。シカゴへは今後の調査の参考と意見交換の円滑化のため、前回研究補助を務めた大学院生を同行させる。 ②本研究者は、最終年度に向けて本研究で得た資料を用いて論文の執筆に取り掛かるものとする。 ③本研究者と研究補助者は平成25年8月~9月の期間にルーマニアにてフィールド調査を継続し、映像の撮影、音源録音、聞き書き、参与観察により研究テーマを深化させ、さらなる成果を上げることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
備品費:研究成果発表に必要な映像の編集のために、Apple Final Cut Studio HD academicを1式、および対応PC(Apple、型式未定)1式を購入する。 旅費:研究成果発表(インドネシア、上海1名合計10日間、シカゴ2名4日間)、現地調査(ルーマニア2名5週間)として使用する。 その他:事務用品等の購入に充てる。
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