研究課題/領域番号 |
24520905
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
嶋 陸奥彦 東北大学, 文学研究科, 名誉教授 (30115406)
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キーワード | 文化人類学 / 韓国 / 農村 / 社会組織 / 自然村概念 / 身分制 |
研究概要 |
喪布契(1931-1957)、燈契(1936-1957)、布帳契(1955-1973)、為親契(1956-1994)、洞中親友契(1957-1994)、洞中親友契(1994-2010)、大洞契(1905-2010)という7つの契組織について、一年ごとに記録に表れる人名(輪番で担当する役員、資金の借り手、その連帯保証人など)をエクセル・ファイルに入力し、それらを年次毎に並べて比較することによって、それぞれの契の存続期間内に新規加入する者(≒転入者)、名前の見あたらなくなる者(≒転出者)を推定する作業を行った。これによって ①村を構成する二つの集落それぞれに属する世帯とその流動性にかなりの程度にまで迫る ことができた。特に村を構成する世帯の流動性が驚くほど早かったころは重要な発見である。②以前の現地調査に際して「これら二つの集落は1950年ごろまで別々の村だった」と語ら れていたことの内容を改めて検討することができた。村の枠組みが容易に組み替えられる者であるということが確認される。さらに③1950年頃までの二つの村の住民について「身分が違っていた」と強調して語られていたことの実情に迫ることができたのは予想外の成果だった。 以上の発見は、いずれも韓国の農村の社会的性格についてに従来の見方を根本的に見直す必要性を示唆している。特に植民地期に農村社会学者の鈴木榮太郎が日本の農村社会研究から韓国の農村研究に持ち込み、その後の韓国農村研究に大きな影響を与えてきた自然村概念が、実は韓国の農村にはあてはまらないというきわめて重要な意味を持っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度に関する当初の計画は、膨大な文書記録の内容の解析だった。それによって村を構成する二つの集落それぞれの世帯の流動性を確認したことは、韓国の農村の性格一般を考察するにあたって新しい資料を提供することになった。それに加えて、身分制に関わる情報が明らかになったことは予想外の展開だった。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間にわたる資料の基礎的処理とその上に行われた分析を土台として、村社会の動態を 1)契組織の改編・継承関係、2)個人(世帯)レベルでの流動性、3)それらを取り巻く社会情勢の変化の三つのレベルで確認しながら、自然部落概念の妥当性を根底から再検討し、近世以降の朝鮮・韓国の農村社会に関する従来の研究に欠落していた動態的側面への視点を提起することが、本研究の最終年度である平成26年度に行うべき課題である。さらに本研究で対象とした村方文書の保存方法についても検討する必要があると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末に Association for Asian Studies の研究大会に参加するために海外出張を行った。この学会の参加費260ドルを科研費で支出する予定で、出張報告書を提出する際に領収書を添付したのだが、参加費の金額を証明する書類の提出を求められた。しかしそのときには大会が終了した後であったため、当該の情報は学会のホームページから削除されてしまっていた。そこで参加費を支出することができなくなり、それに該当する金額が残る結果となった。 物品費として使用する。
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