研究課題/領域番号 |
24520906
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大村 哲夫 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (30620281)
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キーワード | 東日本大震災 / 慰霊 / 卒業証書 / 学校 / 癒し / 子ども供養 / 宗教心理学 / 癒し |
研究概要 |
東日本大震災後2年となり被災者,宗教者の状況も変化を見せてきた.それに応じて研究も被災者のこころのケアとそれに関わる宗教的なケアに重点を移した. 2013年度は,「学校における癒しと慰霊」に焦点を当て研究を進めた.具体的には宮城県における震災犠牲者となった幼児児童生徒への「卒業証書」授与について調査研究を行った.死亡して学籍を抹消された幼児児童生徒に生者と同様に卒業証書を授与することは,法的には根拠がないが,実際には遺族らに授与されたケースが少なくない.過去「非業の死」を遂げた児童生徒らへ授与した事例はあるものの,調査を伴った先行研究はなく,今回は宮城県における犠牲者が在籍したすべての公立幼稚園,小学校,中学校,高校,特別支援学校を対象に質問紙による調査を実施した. 結果は,対象校園のうち47.4%から回答が得られ,幼稚園では100%,小学校では42.9%,中学校では83.3%,高等学校および特別支援学校では0%で授与されていた.授与は遺族の心情を忖度した教職員によって提案され,中学校では生徒の意向も反映されたことなどもわかった.授与の理由として遺族のケアに関わる記述が多かったが,教職員や児童生徒らの「癒し」となることを期待していたことも窺われた.さらに記述は少なかったが死亡した児童生徒らの慰霊のために授与されたこともわかった.これは宗教的な習俗である「こども供養」と通じる心性が存在すると推察できる.また設置者が県である学校で授与がなかったのは,児童生徒や地域との物理的心理的距離が影響したと考えられる. 成果は逐次印度学宗教学会,日本宗教学会,日本心理臨床学会等で発表し,東北アジア研究センタの研究報告会でも報告した.また論文化し「死者が卒業するということー東日本大震災における慰霊と癒し-」『文化』第77巻に発表した.成果還元として『中外日報』の「論・談」に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究立案時は震災直後であり様々な問題が錯綜していたが,徐々に変化してきた.それに応じて研究テーマも絞り込みを行い,学校における子どもの死とそれに関わる遺族や教職員,幼児児童生徒の「こころのケア」と宗教的民間習俗などとの関わりについて研究を進めている.宗教者のボランテイア活動や「心の相談室」とその成果としての「臨床宗教師」の動きについても観察を続けている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,学校における震災犠牲者の追悼に関わる建碑や追悼行事にも注目して,その目的のうち生者に向けられる「癒し」と死者に向けられる「慰霊」の両面から分析していく.また死者への卒業証書授与については,福島県および岩手県の調査も進めていく予定である.学校の統廃合や教職員の異動が進んでいるため優先的に調査を進めたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
導入予定のPCやビデオカメラ等は,機種の改良によってよりよい性能をもつ製品を購入できる可能性がわかったためあえて先送りを行った.また調査費用が嵩み,その確保のため調整を行う必要があったから. 調査に関わる費用との調整の上,本年度整備の予定.
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