研究課題/領域番号 |
24520911
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
常田 夕美子 大阪大学, グローバルコラボレーションセンター, 特任准教授 (30452444)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | インド / ラーバン / グローバリゼーション / 社会変化 / 親密ネットワーク |
研究概要 |
今年度は、日本滞在中は関連文献収集・読解を行い、インドでの現地調査は8月と2月~3月の2度にわたって行った。1回目の現地調査では、1991年から継続的に調査をしているオディシャー州クルダ郡ゴロ・マニトリ村の社会経済的変化および都市村落混住地域(以下、ラーバンrurban)との相違点を分析するために、家系と家族史のデータを収集した。調査の結果明らかになったのは、村落と比べて、ラーバンのほうが医療施設と教育施設が比較的充実しているため、村人たちは家族のうち誰かをラーバンに一時的あるいは恒常的に滞在させようとしていることである。そのような動きによって、村落、ラーバン、大都市、海外をつなぐグローカルネットワークが構築されつつある。2回目の調査では、オディシャー州クルダ町近隣のパラ村で、カースト、年齢、ジェンダー、階層別のインタビュー調査を行った。調査の結果、パラ村はラーバンの典型例であることがわかった。同じくラーバンの例としてクルダ町近隣のモトリ村でも聞き取り調査を行い、モトリ村はラーバンの発展段階にあることが分かった。ラーバン地域では、従来の村落部におけるような男系親族集団とそれにもとづく家屋や土地の相続という原則、そして、それに応じて息子世帯が親と同居して老後の面倒を見るという形態は失われつつある。しかし一方で、都市部に移住した若年世代が日常的には独立した別個の世帯として暮らしているのに対して、ラーバンという新たに居住可能な土地においては、男系の原則やさらには血縁関係自体にとらわれない日常的なケアの関係が構築されていることが判明した。ラーバンは、現代インドにおける新しい価値観や社会的実践が生まれつつある社会空間であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の文献および現地調査から、現代インドの動態を理解するためには、村落と都市の関係の再編過程を検討することが重要であることが明らかになった。そこで注目すべきは、村落と都市の間をつないで急速に広がっている都市村落混住地域としてのラーバン(rurban)であり、その発展にともなう村落と都市の関係の変容、および多元的な社会集団の混住状況である。現代インドの村落/都市関係の再編に関する研究において、地理学や建築学は地域構造や人口分布の分析から空間変容に着目し、人類学や社会学は家族、親族、ジェンダー、カースト、宗教コミュニティの再編成にもとづく社会関係の変容について注意を向けてきた。しかし近年の研究では、さまざまな新たな社会関係が、人びとの空間的な相互作用をつうじて構築されることが注目されている。つまり、空間の再編と社会関係の変容は切り離すことができないもので、両者を総合的に検討することが必要である。空間と社会関係のつながりは、「物質=記号」という考え方から理解できる。人・モノ・カネ・情報という「物質=記号」を密接にやりとりするなかで、個人の身体が家族・親族と親密につながったままで、自由に移動することが可能になっている。物質=記号の共有によって広がっていく親密ネットワークは、現代インドにおいて、村落、都市、海外という多様な場所をリンクし、人やモノの移動という社会経済的動態の基盤となっている。ラーバンの場合注目すべきは、親密ネットワークは従来の家父長制やカースト制に基づいた人間関係に限定されないことであるが現地調査を通じて確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、2回にわたる現地調査をつうじて、新しい調査地を開拓し、そこの住民とのラポールを築いた。次年度は、さらにそのつながり強め、信頼関係を深めることにより、オディシャー州クルダー町郊外に在住する様々なタイプの住民に詳細なインタビューを行う。当該地域では、従来の村落部におけるような男系親族集団とそれにもとづく家屋や土地の相続という原則、そして、それに応じて息子世帯が親と同居して老後の面倒を見るという形態は失われつつある。しかし一方で、都市部に移住した若年世代が日常的には独立した別個の世帯として暮らしているのに対して、ラーバンという新たに居住可能な土地においては、男系の原則やさらには血縁関係自体にとらわれない日常的なケアの関係が構築されている。そこで興味深いのは現在女性の雇用機会が増えているなか、女性が夫や家族・親族を説得し、ローンも夫と一緒に組みながらラーバン内の自分の両親宅の近くに家を建てるケースである。さらに注目すべきは、従来インドでは息子が親の老後の世話をするのが当たり前だという考えがあるが、ラーバンの中間層退職者たちは子供たちの世話にはなりたくないと主張し、都市で働いている息子たちが彼らを呼び寄せようと思ってもそれに応じないケースがよくみられることだ。そのかわり、近所に住む貧困者(未亡人や「出戻り」などを含む)を家事労働者として雇いながら、お互いが家族のようにふるまっているケースがままみられる。そこでは、社会的弱者を含む相互的な新たなケアの関係が作られている。今後はそのようなラーバンにおける従来の家族・親族・カースト関係を超える新しい親密ネットワークが構築を調査研究する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は以下のとおりである。 1)インド渡航費 1か月x2回 2)関連文献購入
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