研究課題/領域番号 |
24520911
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
常田 夕美子 大阪大学, グローバルコラボレーションセンター, 特任准教授 (30452444)
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キーワード | インド / ラーバン / グローバリゼーション / 社会変化 / 親密ネットワーク |
研究概要 |
今年度は、日本滞在中は関連文献収集・読解を行い、前年度のフィールドワークで収集したデータを整理・分析した。インド・オディシャー州での現地調査は8月~9月、2月~3月の2度にわたって行った。1回目の現地調査では、昨年度の調査で明らかになったように医療施設と教育施設がいかに人々の居住区の選択に影響を及ぼしているかについて引き続き解明するように努めた。その結果、村落在住の若い人々が将来の居住地を決める際には、医療施設より教育施設の充実が重要であることが判明した。現在、インドでは私立の初等教育機関が急激に増えているが、その質は多様である。私立の幼稚園や小学校の授業料は高額であるため、親は近隣の各学校についての情報収集に必至である。質のよい学校に子供を通わせたい親が増えているため、村落、ラーバン、都市を結ぶスクールバスの需要も増大しており、バス会社や運転手たちのために新たなビジネスチャンスを生んでいる。2回目の調査では、昨年度の調査でラーバンの典型例であると判明したクルダ町近隣のパラ村およびラーバンの発展段階にあるモトリ村で引き続きカースト、年齢、ジェンダー、階層別のインタビュー調査を行った。さらに、現在モトリ村在住で、プリー市近辺のボダバサンタ村出身の40代の女性に聞き取り調査を行い、彼女の子供の頃と現在の学校教育の比較について意見を聞いた。その結果、以前は都市部に限られていた塾産業が現在村落にも浸透していることが分かった。塾は村落内にあり、自らの進学のための学費を稼ぐために、同村落の中高生が経営するものもある。優秀な学生が経営する塾が村落内にある場合、同村落の人々は移住する必要性をあまり感じていないことが明らかになった。なおボダバサンタ村はプリー市や州都ブバネーシュワル市の通勤圏にあることから、ラーバン化しているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の2月~3月に行った調査は、10月に調査地域を襲ったサイクローンが道路を破壊したため、現地調査のための移動に悪影響を及ぼしたが、そのかわり、災害の際に人々がどのように助け合い、既存の親密ネットワーク強化し、新たな親密ネットワークを築いていくのかについて聞き取り調査を行うことができた。さらに、災害時以外の助け合いについて、パラ村で興味深いケースが確認できた。そこでは、男系親族集団の原則だけでなく血縁関係自体にもとらわれない日常的なケア関係が構築され、都市的な自律的モビリティと農村的な共同態的関係を接合した、新たな社会実践がみられる。パラ村のようなラーバン在住の中間層退職者たちは子供たちの世話にはなりたくないと主張し、都市で働いている息子たちが彼らを呼び寄せようと思ってもそれに応じない場合がよくある。老人が一人暮らしをするために、近所に住む未亡人や「出戻り」などを含む貧困者を家事労働者として雇い、互いが家族のように振舞っているケースもある。そこでは社会的弱者を含む相互的な新たなケアの関係が作られている。それは農村における親族およびカーストヒエラルヒーに基づいた関係や、都市で見られる中間層雇用者と下層被雇用者の関係とは異なる、親族、カースト、階層を超える新たなケアの関係である。そこにはあるていど市場原理に応じた契約関係があるが、家事手伝いをしている人々は自分たちには一人暮らしの老人の面倒を見てあげているという自負や責任感があり、老人も彼らがそばにいてくれるおかげで自分は自宅で安心して一人暮らしができるという。そのように、市場の論理に包摂されない関係性の構築であり、互いを尊重しあう親密性への希求を現地調査によって確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、2回にわたる現地調査をつうじて、初年度の調査地の継続調査と同時に、新しい調査地を開拓し、そこの住民とのラポールを築いた。次年度は、さらにそのつながり強め、信頼関係を深めながら、様々なタイプの住民に詳細なインタビューを行う。特に注目したいのは、ラーバンが、具体的にいかに農村と都市を空間的にも価値的にも媒介し、新しい価値を生み出しているかについてである。今までの現地調査によって、農村出身者にとっては、ラーバンはよそよそしい都会であるが、都市出身者にとっては親しく近所づきあいができる住みやすい場所あることが確認できた。ラーバンが農村的要素と都市的要素が混交する場であるからこそ、そこの住民は農村共同体にあるようなカースト差別に直面せずにすむ一方、都会の無関与・無関心による孤立感を味あわなくても生活ができ、互いに適度な距離感を保ちながら暮らしていける。もちろん近所づきあいはカーストや階層の差異によって選択的になされているが、同じ通りに地域に昔から住んでいる指定部族の家族の藁ぶき屋根の家と上位カーストの中間層の新築豪邸とが並んでいる光景は、農村でも都市の住宅街でもまず見られない。今後は、そのようなラーバンの特質について調査研究し、それがいかに同じく農村と都市の融解過程として注目されている現代インドにおける高層集合住宅が林立する郊外ニュータウン、周辺地域から隔離されたゲーテッド・コミュニティ、旧来の集落が開発から取り残されるアーバン・ビレッジなどと異なるかについて明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
授業、研究会、セミナーのために、インドでの現地調査日程数を予定していたより減少したため。 インドでの現地調査日程数を増やし、図書購入数、資料収取の量を増やす予定。
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