最終年度にあたる本年度は、本研究計画で収集された資料のうち、当初の仮想的であったゲシーレ&コマロフ・パラダイムの批判になりうる資料のまとめをあらためて行った。これまで検討されてきたミクロな資料を細かく分析し、ライブラリーワークによる仮説構築とフィールドワークによる検証、またそこで蓄積された資料による仮説の見直しというPDCAサイクルの繰り返しにより、それぞれの年度ごとに、暫時行ったアウトプットについても見直した。残念だったのは、ブガンダ地域の調査が断片的なものにとどまり、カラモジャ地域での現地調査が、調査時期と長さの問題で実現しなかったこと、ウガンダにおけるシンポジウムが、村落地域で行われたごく地域的なものにとどまったこと、またイギリスでの公文書調査が、的が絞れずに行えなかったことである。しかしながら適宜集めたデータを分析しつつ公表できたという点では一応満足すべきだろう。アドラ以外の地域でのブギス地域で得た土砂崩れが続く土地への執着は、割礼の慣習とそのトポロジーとの関連で非常に意味深いものである。 成果のなかでも、特筆すべきは、10月にはこれまでの研究成果を総合したものとして博士号請求論文を完成し、一橋大学社会学研究科に提出した(2月に最終審査、3月11日学位授与)。ここには、交付申請書に書かれた目的を反映して、ゲシーレ&コマロフ・モデルに対する批判が事例に基づいたかたちで展開している。資料の整理の過程でアドラの観念のうち、「呪詛(ラムlam)」の占める特異な位置に気づき、今後の研究計画の萌芽となった。これは、年長者から年少者に対するもので、敬うべき、あるいは配慮すべきなど社会的義務を怠った年少者に対する呪術的攻撃であるが、社会的な正当性があり、懲罰機能を持っている。この点についてはウィッチクラフト法をはじめとする法規制さらなる展開が期待される。
|